2021年3月1日、『HERMES(エルメス)』からメンズ香水「H24」が新発売となりました。

『HERMES(エルメス)』史上最高の売り上げを記録した「テール・ドゥ・エルメス」の発売から実に15年ぶりのことです。

『HERMES(エルメス)』といえば、言わずと知れたフレンチ・ラグジュアリーの頂点。

モードに偏ったメゾンではなく、馬具、皮革製品、ファッション、ジュエリー、食器類、そして香水など多くの分野で物づくりを行っているブランドです。

香水の分野においては、「テール・ドゥ・エルメス」や「庭園」シリーズを手掛けた調香師ジャン・クロード・エレナが同メゾンをトップに押し上げたと言って過言ではありません。

そんなジャン・クロード・エレナがバトンを渡したのが、2代目専属調香師のクリスティーヌ・ナジェルという女性です。

彼女の功績もまた素晴らしく、『Jo Malone London(ジョー・マローン・ロンドン)』のために調香した20以上ものフレグランスが大ヒットとなりました。

世界の宇宙飛行士の数より少ないとされる調香師。クリスティーヌ・ナジェルはその中でも間違いなく世界最高峰の女性調香師の一人です。

今回ご紹介するのは、そのクリスティーヌ・ナジェルが就任してから初めて手掛けるメンズ香水「H24」です。

ジェンダーレス香水の先駆け的存在でもある彼女が思う、理想の男性像とは?

世界のラグジュアリーフレグランスの頂点である『HERME(エルメス)』が挑む、新たなメンズの香りとは?

21世紀も深まりつつある今。

この「H24」にヒントが隠されています。

ニュートラルなハーブ香るオードトワレ

出典:『HERMÈS(エルメス)』公式インスタグラムより

H24 オードトワレ

シングルノート:クラリセージ、スイセン、ローズウッド、スクラレン、アンバー、他

発表年:2021年

調香師:クリスティーナ・ナジェル

対象性別:男性

非常にシンプルなネーミングの「H24」ですが、この頭文字の「H」はHERMES(エルメス)、HOUR(時間)、HOMME(男性)、それぞれの言葉の頭文字を意味しています。

さらに「24」は24時間という時の流れ、そして『HERMES(エルメス)』が第1号店を構えるパリのサントノーレ店の住所、24番地を意味しているそうです。

実は「H24」、今までのメンズフレグランスの定番だったウッディ・レザー・タバコといった香料を使用していない、植物のハーブに重きを置いた全く新しい香りなんです。

調香師のナジェル氏も「ウッディノートから距離をおくところから始めた」と公言しているとおり、クラリセージというシソ科のハーブをベースにした爽やかでアロマティックな香りは、これまでとは違い異彩を放つもの。

さらにナジェル氏は「H24」について、「アスファルトを突き破って顔をのぞかせた小さく弱々しいハーブの新芽が、自らの居場所を主張するかのようにグングンと伸びていくイメージ。そんな都会にある自然、というものを思い浮かべました」と述べています。

出典:『HERMÈS(エルメス)』公式インスタグラムより

「H24」は香りの変化が穏やかなシングルノート。

この香りの主軸となるクラリセージは、ヨーロッパ各所、道路わきや公園などでも見られる馴染み深いハーブです。

アスファルトなど気にも留めず、ナジェル氏の言葉のとおり「力強く咲く野の花」なのです。成長すると茎は太く、花や葉も想像以上のサイズと硬さを持つハーブとなります。

その香りは辺り一帯に“シャープでワイルドな甘さ”を漂わせるほど、ハッキリとしたもの。

「H24」では、このけなげながらも甘くワイルドなクラリセージが中心となり、セクシーなアンバー、ミステリアスなスイセン、バラに似た香りのローズウッドなどを配合しています。

つけたての頃に香るのは、緊張と弛緩を共に感じる緑々しさ。まだ熟していない青いブドウのような、少し筋張った印象です。

ミドルにかけてスイセンの柔らかさが加わり、ハーバル&フローラルの香りに落ち着き、最後は甘さ、シャープさ、爽やかさの全てが融合して溶けていきます。

出典:『HERMÈS(エルメス)』公式インスタグラムより

「H24」はハッキリとした香りの変化はないものの、空の色のような、自然なグラデーションが楽しめる1本。

ハーバルで、キリッとした鋭い香りのバランスがとても素敵です。

ほんの少しの甘みもあり、それが嫌味のない色気となって逆スパイスに。“自然体で生きる現代”にとてもフィットする香りと言えるでしょう。

メンズ香水であっても、骨太で20世紀的な男くささではなく、ニュートラルでソフトな男性像を描いた「H24」は、現代的で理想的なオードトワレだと思います。

パワフルで野心的で、物質を多く所有している男性が魅力的とされた20世紀。

ところが21世紀も20年が過ぎ、昨今の理想の男性像は真逆となりました。

柔軟で洗練された考えを持ち、物を持たないミニマリスト。

「H24」からは、“決して時間に従属しない”という『HERMES(エルメス)』が描く理想の男性像が垣間見えることでしょう。

今後の世界は、男女の嗜好がもっと近づき、よりニュートラルになるかもしれません。

「H24」はそれをも見据えた、未来へ向かう『HERMES(エルメス)』のバロメーター的存在となるはずです。

フレグランスに不慣れな男性・女性もまとえる趣味の良さ

「H24」は、優しい笑顔の大人に似合う穏やかな香りです。年齢層としては、20代後半以降の方がしっくりくるでしょう。

ハーバルな鋭さが感じられることから、少し都会的な香りではあります。

時に青く、時にシャープで、時に煮詰まり、時に落ち着く、そして甘い。

そんな香りの変容は、都会に生きる男性の心情そのもの。感情のたたみ方が上手な、スマートな現代人を彷彿とさせます。

玄人志向の難解な香りではないので、フレグランスに不慣れな男性にもぴったりです。

使いやすいのに程よい色気と品があり、万能型のラグジュアリーフレグランスと言えるかもしれません。

そして男性向けオードトワレですが、女性も気兼ねなくまとえるでしょう。

「H24」は男性がまとえば「スタイリッシュで親しみやすい、旬な人」を演出でき、女性がまとえば「健康的なセクシーさを備え持つ、できる人」との印象を周囲に与えるはず。

『HERMES(エルメス)』の香りは共通して“清潔感”が似合うので、短く切りそろえられた髪やアイロンのかかったシャツなど、上質でこざっぱりとした装いにぴったりです。

まとめ

『HERMES(エルメス)』の最新のメンズ香水「H24」は、“植物の生命力”みなぎるハーブを堪能できるアロマティックな香りです。

詰め替え可能なレフィルタイプも同時販売。サステイナブルに基づいた現代的な感性、その穏やかな香り、全てが今の暮らしにはまることでしょう。

思いがけず世界が澱んでしまった今、このフレグランスの主役となったクラリセージのように、何にも侵略されず真っすぐ天だけを向く姿勢、マインドが必要なのかもしれません。

「H24」の香りを今の自分に重ねて。

サンクチュアリのように穏やかで真っすぐな香りに満たされてみてくださいね。