ニッチフレグランスブランドとして絶大な人気を誇るバイレードは、スウェーデンはストックホルムで始まりました。
香水といえばフランスやイギリス発のものが多いのですが、北欧スウェーデンからの香りということで、ブランド誕生当時は大変な話題になりました。
しかし、創業者のベン・ゴーラム氏はインド、スウェーデン、アメリカに縁のある多様性に満ちた人物です。
彼の創る香りもまたバラエティに富んでいて多国籍。
凝り固まった香水の伝統に囚われることなく、現代のダイバーシティを表現したユニセックスフレグランスとして世界のファッショニスタから熱い支持を受けています。
ユニークな香りが揃うバイレードの中から、今回は「ROSE OF NO MAN’S LAND(ローズ オブ ノー マンズ ランド)」というローズのユニセックス香水をご紹介したいと思います。
これはただの美しくて華やかなバラの香りではありません。
「ROSE OF NO MAN’S LAND(ローズ オブ ノー マンズ ランド)」…
“男性が存在しない地のバラ”、です。
第一次世界大戦中の最前線において、価値ある医療活動を行った「赤十字社の従軍看護婦」を讃えて作られました。
世界中で反戦が叫ばれている今。
「ROSE OF NO MAN’S LAND(ローズ オブ ノー マンズ ランド)」はタイムリーな香りとして大勢の方の心に響くことでしょう。
売上の一部が「国境なき医師団」に寄付される
「ROSE OF NO MAN’S LAND(ローズ オブ ノー マンズ ランド)」は、バイレードの創業者ベン・ゴーラム氏が第一次世界大戦中に活躍した従軍看護婦を讃えて創造した香りです。
大戦中、「無人地帯」となった最前線に赴いた看護婦たちは、危険を顧みず兵士たちの手当を行いました。
人間同士が傷つけ合うという最も非人道的な状況下で、看護師は自身の仕事とどう向き合ったのでしょうか。
大戦中は多くの国が国民を動員し、戦争を遂行しました。
そして看護にも多大な協力が求められました。
そのほとんどが10~20代の女性であったといいます。
彼女たちは青春を戦地で過ごしたのです。
そして戦況の悪化とともに過酷な勤務を強いられ、戦闘行為に巻き込まれたり、終戦後も長期に渡って異国に抑留されたりなど、筆舌に尽くしがたい運命をたどりました。
男性は戦争で命を落とし、緑豊かだった祖国は荒野と化してしまいます。
「ROSE OF NO MAN’S LAND(ローズ オブ ノー マンズ ランド)」は、こうして「バラ」と兵士たちに呼ばれた、赤十字の従軍看護婦の活動を称え、彼女たちへの敬意を込めて制作された香りです。
この売り上げの一部はバイレードによって「国境なき医師団」に寄付されました。
と、このようなストーリーは「遠い過去」の話として、私たちの記憶上に留まる予定でした。
現在、2022年となった今でも争いが勃発しています。
もし、自分の祖国が他国に侵攻され、荒れ果て、男性が一人もいなくなったとしたら。
その地に咲く一輪の野バラに香りを見立てて、ご紹介を続けていきたいと思います。
荒野に咲く一輪のバラ。孤独と包容力の矛先
ROSE OF NO MAN’S LAND(ローズ オブ ノー マンズ ランド)オードパルファム
トップノート:ターキッシュローズ、ローズペタル、ピンクペッパー
ミドルノート:ターキッシュローズ・アブソリュート、ラズベリー
ラストノート:パピルス、ホワイトアンバー
発表年:2015年
調香師:ジェローム・エピネット
対象性別:ユニセックス
「ROSE OF NO MAN’S LAND(ローズ オブ ノー マンズ ランド)」のトップノートは鋭いガラスの刃のようです。
いきなり背後から狙われているような感じで、緊張感の伴うピンクペッパーと鋭敏なローズの香りが一瞬のうちに辺りを包みます。
もしくは、若いバラのトゲ、とも表現できるでしょう。
孤立無援、孤独、荒野といったワードがまざまざと浮かんでくるドラマティックなスタート。
ローズ香水らしからぬ不穏な始まり、そしてえぐみのある香りが少し私たちを不安にします。
しかしすぐにその迷いは消えます。
切れ味の鋭かったローズは心を開き、つぼみをゆっくりと広げていきます。
香料には入っていませんが、花びらだけでなく周りの葉や茎の存在まで感じられる、グリーン感を伴っています。
そのイメージは「死の地に舞い降りた一つの生」とでも言えるでしょうか。
モノクロの世界にたたずむ「カラー」が圧倒的な存在感を放つように、非常にたくましく、生きてやる!といった気迫を持つバラなのです。
ミドルノートに引き立て役は存在しません。
「ROSE OF NO MAN’S LAND(ローズ オブ ノー マンズ ランド)」のターキッシュローズは、絶対的な生命力を持つ、植物のたくましさを表現しています。
太陽、そして水がいつ手に入るのかも分かりません。
けれども、生きたいという思いが勝り、あらゆる困難を乗り越えようとする静かな闘志が感じられます。
派手さはありませんが、徹頭徹尾「凛」としていて、かっこいい香りです。
ラストノートでは、そのバラがいよいよ優しさをはらんでいきます。
香料にはパピルス(紙)とありますがパピルスの香りはここでは強調されていません。
どちらかというとホワイトアンバーの優しさ、包容力のある香りが引き立っています。
トップノートからラストノートにかけての香りの変化は激しく、まるで戦記を読んでいるかのよう。
バイレードすべての香水に共通していることですが、ラストノートがとても優しくうららかで、肌にとてもよく馴染みます。
その心地よさは他ブランドにはないもので、私たちの感情を揺さぶります。
荒野に咲いた一輪のバラは、優しい看護婦さんに摘み取られ、最後まで大切に育てられたのでしょう。
人によって傷つけられても、最後は人によって温かく包まれる、そんな包容力を感じさせる感動的なラストです。
「ROSE OF NO MAN’S LAND(ローズ オブ ノー マンズ ランド)」の香りは、例えるなら映画ではなく、一冊の本のようです。
映像ではなく、写真でもなく、文字を追いかけて呼んでいるような、ストーリー性に富んだ素晴らしい1本です。
ユニセックス香水、しかし男性がまとえば高尚な印象に。
「ROSE OF NO MAN’S LAND(ローズ オブ ノー マンズ ランド)」は男性がまとえる貴重なローズ香水です。
甘さがないからでしょうか、鋭さと凛とした表情がとても際立っています。
スーツスタイルにも良く似合う香りで、バイレードの中でも品格を感じさせるオードパルファムとなっています。
ただあまり若い方には似合わないかもしれません。
修羅場をくぐり抜けた、甘さを必要としない大人の男女にピッタリとハマります。
季節も全く関係ありません。
爽やか、フレッシュとも言い切れない香りで、ポエティックで掴みどころのないキャラクターをしています。
そういったところが季節を選ばないのです。
ただ人柄的には、明るいスポーツマンの方というよりは、物事を深く考えるタイプの方にお似合いになるかな、といったところです。
世の中にあふれ返っているバラ香水ですが、絶対的な個性が欲しい方、そしてもう少し踏み込んだ深いローズの香りを探している方に強くおすすめしたい1本です。
まとめ
2015年に発売された「ROSE OF NO MAN’S LAND(ローズ オブ ノー マンズ ランド)」は、バラの気高い香りにバイレードらしい解釈が加わりました。
肌を優しく包み込みながら、心に強く残る、不思議で愛おしい香り。
この超越したローズの香りとともに、けたたましい世界を乗り越えていきたい。
「ROSE OF NO MAN’S LAND(ローズ オブ ノー マンズ ランド)」は私たちをそんな気持ちにさせてくれる、壮大でたくましい1本です。