自然を彷彿とさせる深い香り、インテリアに映えるお洒落なボトルデザイン、ジェンダーの垣根を超えたユニセックス香水…
これで連想するのは、もちろんあの「ディプティック」です。
パリを拠点とするディプティックは2021年で創立60周年を迎え、ますます存在感を増すようになりました。
なぜこれほどセンスが良いのか。
それは創業者3人とブランドのルーツに由来しています。
ディプティックの始まりは一人ではなく、画家・劇場監督・インテリアデザイナーの3人によって1961年、パリのサンジェルマン=デプレで創業されました。
よって、最初は香水ブティックではありませんでした。
インテリア雑貨店がルーツという、異色の経歴を持つフレグランスメゾンなのです。
キャンドルの大成功によってフレグランス事業にも参入するのですが、香水がメインとなってからもディプティックの香りは他のブランドと一線を画していました。
彼らの作る香りは、旅や建築物、美術品からインスピレーションを得て作られた、オリジナリティあふれるものばかりでした。
ということで、個性的ながら気取り過ぎないディプティックのスタイルは、このようにして出来上がっていったのです。
さてディプティックが得意とするのは、シトラスやローズ、水の香りなど「自然を賛美」したナチュラルな香りです。
セクシーな香りが少ない…と思われがちなブランドですが、今回ご紹介するのはディプティック一“官能的”な香り、「Fleur De Peau(フルール ドゥ ポー)」です。
日本語で「肌に咲く花」となる「Fleur De Peau(フルール ドゥ ポー)」。
弱めながらもしっかりと官能的な、まさに「人肌」の香りとなります。セクシーな香りを求める人にとっては、逆に最強のフレグランスとなるかもしれません。
詳しく見ていきましょう。
ギリシャ神話にインスパイアされた恋の香り
「Fleur De Peau(フルール ドゥ ポー)」は、ギリシャ神話のプシュケとエロスにヒントを得た作品です。
これは『美女と野獣』の原点とも言われる有名なストーリーです。
ある国の王さまと王妃さまには、3人の美しい娘がいました。なかでも末娘のプシュケの美しさは群を抜いていました。その美しさを一目見ようと、たくさんの人々が国を訪れたと言います。
しかし美の女神アフロディーテは人間のプシュケに強烈に嫉妬しました。
そこでアフロディーテは息子エロスをおつかいに出そうとします。
「醜い豚飼い男にプシュケが恋をして、惨めな姿になるようにそそのかしておくれ」と。
しかしそれは果たされることはありませんでした。なぜならエロスが寝ている彼女を見て恋に落ちてしまったからです。
かえってプシュケに魅せられたエロスは彼女を人里はなれた宮殿に置き、自らの素姓が知れぬよう、夜の間だけ訪れて彼女を愛しました。
しかしプシュケにはエロスの姿が見えていません。彼は実は醜い姿をしていて、日中に顔が見られないようにしている、とプシュケは考えました。
エロスはプシュケに言います。
「愛に疑いがあってはならない」と。しかしエロスの優しさに惹かれ、プシュケは心から“姿のない”夫を愛するようになります。
アフロディーテの意地悪にもめげず、エロスを想うプシュケに、彼は最後の最後でその美しい姿を妻の前に現しました。
ますます惹かれあう二人を見て、神ゼウスはプシュケに祝福を与えます。
最終的には彼女も神となり、全ての世界で祝福されるのでした。
ムスクを二人の人肌に例えた香り
Fleur De Peau(フルール ドゥ ポー)オードパルファム
トップノート:アルデハイド、ピンクペッパー、アンジェリカ、ベルガモット
ミドルノート:ターキッシュローズ、アイリス
ラストノート:ムスク、アンブレット、キャロット、アンバーグリス、サンダルウッド、アンバーウッド、レザー
発表年:2018年
調香師:オリヴィエ・ペシュー
対象性別:ユニセックス
「Fleur De Peau(フルール ドゥ ポー)」は、プシュケとエロスの愛をムスクに例えました。彼らの人肌を現す香りをメインとしたのです。
つけたては驚くほどさりげなく、ひっそりと始まります。
こうしたコンセプトを持つ香水はトップノートがドラマティックだったりするのですが、「Fleur De Peau(フルール ドゥ ポー)」には全くそんな雰囲気がありません。
ところがここに仕掛けがあります。
人肌に温められていないうちは、香りがまだ立ち込めてこないのです。
ちょうどエロスとプシュケの思いが、最初一方通行であったように、この段階ではまだ花が開いていない状態です。
20分から30分くらい経った頃でしょうか、だんだんとアイリスの花が肌の上で咲いていきます。
アイリスは、パウダリーで石けんにも似た高貴な香り。
グルマンな甘さというよりクリーミーな甘さが引き立っていて、本当に女性の肌のような匂いがします。
男性がつけてもセクシーなことに変わりはありません。
上品で艶めかしい香りが5~6時間ほど続きます。
トップノートこそ控えめなものの、ミドルノートの持続時間は長く、非常に使い勝手の良いフレグランスといえます。
またラストノートの余韻も良いです。
スキントーンが透明になって、二人の愛を祝福するように昇華していきます。
官能をひけらかしたくない大人の男女へ
「Fleur De Peau(フルール ドゥ ポー)」は季節やファッションを問わないのですが、年齢的には30代以上の、大人の男女に良く似合う香りです。
派手さや、官能というワードを全面に出したくない方へ。
セクシーを謳った香りはたくさん存在しているのですが、中には主張が激しすぎるものもあります。
しかし「Fleur De Peau(フルール ドゥ ポー)」は先述した通りかなり控えめで落ち着いた香り方をします。
そのため、他者と自分を比べることを「もう必要としない」大人により良く似合うでしょう。
オフィスにもOKですし、どんな服装でも合う不思議な魅力を持っています。
趣味が芸術鑑賞であったり、寡黙なタイプの人にも似合います。
一方でパーティーや飲み会といったここぞという場面では、香りが埋もれてしまうかもしれません。
いずれにしろ、自分あるいは相手とのごく狭い空間で官能性を育む、そういった楽しみ方ができる1本です。
まとめ
「Fleur De Peau(フルール ドゥ ポー)」は控えめながら、人肌の香りを完璧に追求したフレグランスだと言えます。
まるきり石けんの香り、とも言い難い、芸術性に富んだ実にディプティックらしい1本。
美女と野獣の原点にもなった美しい神話を思い浮かべながら、「Fleur De Peau(フルール ドゥ ポー)」を楽しんでみて下さいね。