1935年に、フレグランス・ブランドとして創設された『LANCOME(ランコム)』。
そのブランド名の由来は、フランス中部のアンドル県にあるランコズム城に咲いていた野バラに由来します。
『LANCOME(ランコム)』といえばマスカラですが、実はフレグランスから始まっているブランドでもあるのです。
メイクアップとスキンケアの世界的なヒットを受け、一流ブランドに上りつめた『LANCOME(ランコム)』でしたが、肝心のフレグランス部門では他の巨大メゾン、シャネルやゲランに遅れを取っていました。
90年代は、女性が完全に自立を果たしていく時代。
そこで『LANCOME(ランコム)』は女性のお守りとなるような香りを創ろうとしたのです。
それが、今回ご紹介する「Tresor(トレゾァ)」です。
「Tresor(トレゾァ)」とは、フランス語で「宝物」という意味を持ちます。
女性の宝物のように、もしくは、女性そのものが宝物であるように、ひとりひとりを輝かせてくれる香り。
その誕生秘話もまるで「シンデレラストーリー」のように輝いています。
香りの説明の前に、ぜひその歴史をご紹介したいと思います。
名香というのは、いつ、どの時代も奇跡が起きて誕生するものです。
ソフィア・グロスマンと運命の出会い
「Tresor(トレゾァ)」には、それ自体がサクセスストーリーのようなドラマ性があります。
1980年代、ニューヨーク在住の女性調香師のソフィア・グロスマンは、自分用に創ったプライベートなフレグランスを持っていました。
その名前はシンプルに「2933」というものです。彼女が香りをまとうと誰もがその香りの虜になり、「どこの、何という香水ですか?」と尋ねていたそうです。
そんなある日彼女は、パリで同業者の友人から『LANCOME(ランコム)』で新香水の調香が難航しているという話を耳にするのです。
しかし、『LANCOME(ランコム)』はパリ拠点、彼女はニューヨークで活躍する調香師なので縁のない話だと考えていました。
ところが彼女はニューヨークのデパートで、『LANCOME(ランコム)』のミューズであるイタリア女優、イザベラ・ロッセリーニの口紅のキャンペーン広告を見た瞬間、雷に打たれたような衝撃を受けました。「2933こそ、イザベラに相応しい」と考えたのです。
出典:イザベラ・ロッセリーニ公式インスタグラムより
それでもやはり自分は『LANCOME(ランコム)』と仕事をする機会がない、あり得ないと考えていました。
ですがチャンスは訪れます。
『LANCOME(ランコム)』が新香水のミューズにもイザベラ・ロッセリーニを起用する、という話を耳にするのです。
ソフィア・グロスマンはここで行動を起こしました。彼女は力作「2933」をベースに試行錯誤を繰り返し、完成した見本をランコム社に持ちこみました。
『LANCOME(ランコム)』の開発ディレクターもまた、その香りを嗅いで衝撃を受けたといいます。この香りこそ、ランコムにふさわしいと。
その後「Tresor(トレゾァ)」は、15秒ごとにボトルが1本売れるという奇跡的な売れ行きを実現させます。
1991年と1992年に世界で最も売れたフレグランスとなり、『LANCOME(ランコム)』帝国は見事復活を果たしました。
絢爛豪華なローズ、1990年代の理想の香り
Tresor(トレゾァ)オードパルファム
トップノート:パイナップル、ライラック、ピーチ、アプリコット・ブロッサム、スズラン、ベルガモット、ダマスクローズ
ミドルノート:アイリス、ジャスミン、ヘリオトロープ、ローズ
ラストノート:アプリコット、サンダルウッド、アンバー、ムスク、バニラ、ピーチ
発表年:1990年
調香師:ソフィア・グロスマン
対象性別:女性
「Tresor(トレゾァ)」の香りの素晴らしさは、香りの移り変わりの絶妙さにあります。
多くの香水が3段階の「ピラミッド構造」となってゆっくり香りが変化していくのですが、「Tresor(トレゾァ)」は最初からローズにピーチが混じり合います。
最初からまるで、宝箱を開けた瞬間のような華やかなムードに包まれるのです。
そんなトップノートはアプリコットやダマスクローズの甘い香りで始まります。
その甘い蜜のような香りから、ミドルノート以降で徐々にアイリスやヘリオトロープ、ピーチのパウダリーな香りが現れ、芳しさを放ちます。
トップノートからミドルノートの絢爛豪華さは、ヴェルサイユ宮殿の王女の寝室のように華麗で、心に残るものです。
これぞ90年代!といった香りで、世界的に女性が活躍し、文化芸術が底上げされた時代を象徴する、パワフルなフレグランスでもあります。
そして、暖かく包んでくれる優しい女性の香りもします。
「なんでも許してくれそう」というような、女性の包容力を感じます。
ただ、それが「母」や「祖母」ではなく、しっかりと「異性」となって表れているのが「Tresor(トレゾァ)」のすごいところなのです。
ラストノートもまた、この香水で「素晴らしい」と評されるポイントです。
サンダルウッドの移行する時の滑らかな心地よさ。
アプリコットとバニラのハーモニー。
グルマンとも、フローラルとも、オリエンタルともとれる、ゴーシャスで可憐で、往年の大女優のような美しいフィニッシュです。
そしてボトルもこの香水にふさわしいものです。
逆ピラミッド型の厚手のガラスは、まるでバカラのオブジェのよう。
また香水のバラ色も美しく、ただのピンクとならないところに「本物」を感じます。
「宝物」という名前がぴったりな「Tresor(トレゾァ)」、これまで何人の女性のお守りとなったことか、その数は計り知れません。
秋冬、女性のコートに良く似合う香り
『LANCOME(ランコム)』のブランドイメージがバラであるように、「Tresor(トレゾァ)」はとても華麗なローズ香水です。
90年代の香水に多いのですが、香りが少し重くて華やかなため、秋冬の乾燥する季節に良く似合います。
香りの持ち・肌なじみがとても良いので、ウエストから下の部位にまとうと綺麗に香るでしょう。
抱きしめられた時に、体温で温まった「Tresor(トレゾァ)」がうっすら香ったら本当に美しいと思います。
それだけに、女性のウールコート、トレンチコートの下に忍ばせたい香水のNo.1と言えるかもしれません。
年齢層は20代後半から何歳でもOK。
この香りを一度まとえば、誰もが主役になってしまいそうな、女優のような香水です。
何気なくまとっているだけでいつの間にか「自分だけのローズ」になってくれるところも素敵。オンオフ問わず、長く愛用できる逸品です。
まとめ
シャネルに5番があるように、ゲランにシャリマーがあるように。
『LANCOME(ランコム)』の香水といえば、「Tresor(トレゾァ)」です。
この香りを作ったソフィア・グロスマンが自分を信じて『LANCOME(ランコム)』の門をたたいたように、一人ひとりの女性にもストーリーが用意されています。
今回ご紹介した「Tresor(トレゾァ)」が、時を超えて皆さまの「お守り」となれば嬉しいです。