2009年にパリで誕生したフランシス クルジャン。

天才調香師と謳われるクルジャン氏が率いる、芸術性の高いフレグランスが集まるブランドです。

コンセプトはどれも知的で、非常に深い内容です。

さらには香水一つ一つにストーリーと個性をまとわせ、着ける人の人生の一部となるような香りを追求しています。

深いアート性、知的好奇心をくすぐるテーマ設定、ポエティックなところなどがやはりフランスらしく、ロンドンでもニューヨークにもない一種の“独自性”を発見することができます。

クルジャン氏は、少年時代に母親がつけている香水の魅力に開眼したといいます。

彼の実力が広く知られるようになったきっかけは、1995年に手掛けたジャン・ポール・ゴルチェの「ル・マル」という香水。

世界的なヒット作となり、一気にスター調香師となっていきました。

そんな素晴らしいフランシス クルジャンにあって、大変な人気を博す“ペア香水”が存在しています。

「Petit Matin(プティ マタン)」と「Grand Soir(グラン ソワール)」。

これは、光の都パリの“小さな朝”と“壮大な夜”を2つの香りで展開したペア・フレグランスです。

朝陽に包まれるパリの街の心地良く爽やかな空気と、一日の終わりを飾る素晴らしい夕日の感動を、どちらも身にまとえる香水です。

今回は、この中からパリの美しい夕焼けの香り「Grand Soir(グラン ソワール)」をご紹介したいと思います。

パリの夕焼け、世界で最も美しい瞬間

パリは「世界で最も夕焼けの美しい街」、そう表現できるかもしれません。

夕焼けというのは世界共通です。南国には南国の夕焼けが、ビーチにはビーチらしい夕焼けが、山沿いには山沿いらしい夕焼けが登場します。

ところがパリはどうでしょう。

セーヌ川が、エッフェル塔が、凱旋門が、コンコルド広場が、18世紀の息吹を残しながら夕陽と共存しているのです。

夕陽を反射するオスマン建築、夕陽の逆光で黒く浮かび上がるモニュメントなど、その美しさといったらおよそ言葉で表現できるものではありません。

しかし敢えて例えるなら、「この世とあの世」の狭間のよう、と言えるでしょうか。

夢のようでありながら、楽園ともまた違う、何ともいえない不思議な異空間。

また、青空が琥珀色の空に呑み込まれていくさまは例えようがないほど見事で、人の全ての思考をストップさせてしまうような、妖しい魅力さえ感じます。

一方で朝は180度異なるものです。

何もかもがすがすがしく、小鳥の声、ヒヤッとした空気、太陽の色など、とてつもないフレッシュさを含んでいます。

そしてこちらを言葉で例えるなら、「生まれおちた瞬間」とでも言えるでしょうか。

ということで「Petit Matin(プティ マタン)」と「Grand Soir(グラン ソワール)」は朝と夕だけでなく、相反する二つの現象を含んでいる香りなのです。

朝と夕、生と死、春と秋、覚醒と睡眠、陽と陰。

すっかり日が沈んだ後の香りではなく夕方の香り、としているところも面白いですね。

それでは後者である「Grand Soir(グラン ソワール)」の詳細に迫ってみましょう。

深い深い、特濃なバニラとアンバー

Grand Soir(グラン ソワール)オードパルファム

シングルノート…アンバー、ベンゾイン、バニラ、トンカビーンズ、ラブダナム

発表年…2016年

調香師…フランシス・クルジャン

対象性別…ユニセックス

「Grand Soir(グラン ソワール)」はパリの夕方をテーマにした、甘く洗練された香りのフレグランスです。

スペイン産のラグダナムと、タイ産ベンゾイン、ブラジル産のトンカビーンとバニラ、アンバーを配合したシングルノートで、非常にリッチなオリエンタル香となっています。

シングルノートではありますが、つけたての頃はベンゾインとラブダナムのアラビアンな香りが印象的です。

アンバーの重厚感もあり、最初からどすっと重いです。

ただここでは後に出てくる樹脂の香りが抑えられていますので、シングルノートと言っても単調ではなく、少しだけ変化していく様子がうかがえます。

さらにそこからはラムの酔わせる香り、辺りを包みこむクリーミーなバニラの香りが広がります。

それぞれ主張は激しいのですが、特にバニラのセクシーさといったら天国のようなものです。そしてそれらのバランスは「文句なしに完璧」と言わざるを得ません。

中間以降に香るこの大人バニラのために、他の香料があるのではないかと思うくらい、バニラの完成度が高いです。

世の中には可愛らしいグルマンバニラ、色気を帯びたバニラとたくさんありますが、「Grand Soir(グラン ソワール)」に限っては「熱い温度を宿した情熱バニラ」。

甘いだけではありません。自分の温度も周囲の温度も三度くらいあげてしまうような情熱的なバニラです。

空が琥珀色になった時。

昼間の自分を脱ぎ捨てて、夜の帳をくぐり抜ける。

カサカサになった心をこの香りで温めてパリの街に一気に繰り出したくなるような、素敵な1本です。

エレガンスと高い持続性。秋冬にしかまとえない香り

「Grand Soir(グラン ソワール)」は、女性、男性、若い方、成熟世代の方、それぞれの年代性別の魅力を引き出してくれる真のエレガンスを追求した香りです。

20代後半以降の方ならどなたにでも似合うと思います。しかし、難しいのがつけ方と季節です。

というのも、この香りは大変濃厚で持続時間も長いため、顔に近い部位や手首につけてしまうとかなりの割合で「香害」となってしまうからです。

腰より下、もしくは服で隠れるウエストなどに集中してつけると良いでしょう。

フローラルではないので、日本の女性は賛否両論あるかもしれません。

人混みやオフィスにも絶対に向きません。

ということで、「寝香水」としてまとうことをお勧めしたいと思います。

「Grand Soir(グラン ソワール)」の持続時間はゆうに10時間を越えます。それからミドルノート以降の香り立ちが見事なほどエレガントです。

夜寝る前にまとえば、起きる頃には素晴らしい香りとなって貴女を包み込むでしょう。

季節は秋冬に限定した方が良いと思います。

琥珀の液体からも分かるように、空が琥珀色になってから、「Grand Soir(グラン ソワール)」をまとってみて下さいね。

まとめ

パリの夕方、壮大な夜にふさわしい香り「Grand Soir(グラン ソワール)」をご紹介しました。

フランシス クルジャンは、総じて知的でエレガントな香りが多いのが特徴です。

セクシーだけどそれだけの香水は欲しくないという方、夜型の方や一人で香りを楽しみたい方はぜひお試しになってみて下さい。

オリエンタル好きな方は香水コレクションの中にぜひとも追加したい1本です。

「Grand Soir(グラン ソワール)」でパリの美しい夕焼けに思いを馳せてみましょう。