香水界の風雲児、こと『Etat libre D’orange(エタ リーブル ドランジェ)』は、パリ生まれのニッチフレグランスブランドです。
パンチの利いたネーミングセンス、そしてそのネーミングに反したエレガントな香り…
「ユニークで飽きない」香水を求めるファッショニスタにとって『Etat libre D’orange(エタ リーブル ドランジェ)』の香りはライフスタイルに欠かせないものとなっています。
さて、そんなブランドでもひときわアーティスティックでエレガントな香りがあります。
「JASMIN ET CIGARETTE(ジャスマン エ シガレット)」という名の、フローラル&タバコの香りを主役にしたオードパルファムです。
一ひねり利いた名前の香水が多い『Etat libre D’orange(エタ リーブル ドランジェ)』のなかでも、珍しくシンプルで分かりやすいネーミング。
しかし、単なるジャスミンとタバコの香りではありません。
この香りをまとった時、辺りがまるで「○○の情景」に変化してしまうような、なんとも創造力を掻き立てるものなのです。
今回は、その深い深い「JASMIN ET CIGARETTE(ジャスマン エ シガレット)」の世界観についてご紹介したいと思います。
ジャスミンがいろいろな香水に用いられる訳
世の中には、ジャスミンを用いた香水がたくさんあります。
その芳醇な香り、可愛らしい白い花は古来から人々を惹きつけてきました。
そしてこのジャスミンという名は、「神からの贈り物」というペルシャ語が由来となっています。
豊かな香りで人々に愛されているジャスミンですが、実はとっても貴重なんです。
例えジャスミンの花を1000kg摘んでも、120g(コップ半分くらい)しか精油は採れないそうで、採油量が少ない事でも有名。
品種により異なりますが、ジャスミンの花を収穫できる期間は約3か月しかありません。
ジャスミンは日没後に開花し、明け方から早朝にかけて最も良い香りを放ちます。
それに合わせて収穫するので、摘み取りできる時間が朝だけと非常に限られています。
そのうえ作業はすべて手摘みです。
ちなみに、そんな貴重なジャスミンを約3000本も贅沢に使用しているのが、シャネルの5番です。
香りを嗅ぐと気持ちの高ぶりを抑え、幸福感を増してくれるといった効能もあり、アロマの世界でも重宝されていますよね。
もちろん「JASMIN ET CIGARETTE(ジャスマン エ シガレット)」でもジャスミンがふんだんに使われています。
しかし、そんなハッピーオーラ漂うジャスミンの相棒が「タバコ」とは意外ですよね。
実はこの香りは、瞬時にして1930年代の映画の世界にいざなってくれる、とても興味深いものなのでした。
マレーネ・デートリッヒを彷彿とさせる白黒の世界
出典:『Etat libre D’orange(エタ リーブル ドランジェ)』公式インスタグラムより
JASMIN ET CIGARETTE(ジャスマン エ シガレット)オードパルファム
シングルノート:アプリコット、ジャスミン、クミン、タバコ、トンカビーン、ムスク、干し草、シダー、アンバー
発表年:2006年
調香師:アントワーヌ・メゾンデュ
対象性別:女性
「JASMIN ET CIGARETTE(ジャスマン エ シガレット)」は、『Etat libre D’orange(エタ リーブル ドランジェ)』が創立された2006年のファーストコレクションのひとつとして売り出されたオードパルファムです。
ごくシンプルに「ジャスミンとタバコの香り」と解釈されがちですが、実はこの香りは1930年代のアメリカ映画、「マレーネ・デートリッヒが活躍していたころ」を彷彿とさせる香りなのです。
彼女は映画の中でよくタバコを持っています。それも、パイプ付きのものです。
白黒の画面のなかでタキシードに身を包み、タバコをくゆらすマレーネ・デートリッヒの姿は何と絵になることでしょう。
「JASMIN ET CIGARETTE(ジャスマン エ シガレット)」はシングルノートではありますが、アプリコットが若干の女性らしさを、そしてタバコとクミンがマスキュリンさを表しています。
そしてジャスミンの情緒的な香り。
フローラル系の王道として用いられることが多いジャスミンなのに、ここでは30代〜40代の(正装をした)、粋な女性像がハッキリと表現されています。
今では喫煙すること自体がタブーになりつつありますが、あくまでも、これは昔の映画の中での「喫煙風景」のイメージです。
例えばこのカラー写真をモノクロにしたとします。
色鮮やかな風景が白黒の世界になることによって、雰囲気は一気にノスタルジックなものとなるでしょう。
「JASMIN ET CIGARETTE(ジャスマン エ シガレット)」は、そんな一抹のノスタルジックさと、粋でカッコいい女性像、そして凛としたマスキュリンさが混在する深い作品なのです。
タバコの香りは主張しすぎることなくじっくりと持続して、そのうちジャスミン以上の存在感を持って香り始めます。
これが、実にモノクロの世界の「スモーキーさ」を上手く表現していて素敵。
ただタバコやジャスミン自体を組み合わせたというわけではなく、きっちりと1930年代のアールデコの世界にいざなってくれるのです。
アートを愛する大人の女性へ。男性にも素晴らしい1本
「JASMIN ET CIGARETTE(ジャスマン エ シガレット)」はアートシーンに本当に良く似合います。もはや香りそのものがアートだからです。
三度の飯よりアートが好き、といった真のアート好きな女性(自立しているような)には特にお似合いになるでしょう。
エレガントな香りなのでどの年代にも合いますが、30代から40代の目の肥えた女性にはぴったりです。
対象性別は女性、とありますが、もちろん男性も問題なくまとっていただけます。
少しスモーキーさがまろやかなので、「マスキュリン過ぎず、そこはかとない存在感」を示したい方におすすめです。
たかが香り、されど香り。
香水ひとつでここまでイメージが変わるものなのか、と驚いてしまうほど豊かな1本です。
きっと、『Etat libre D’orange(エタ リーブル ドランジェ)』に対する「ツンツンしたイメージ」も、この香りで一気に覆ることでしょう。
とはいえちょっと上級者さん向けの香りでもありますので、何回も試香し、外気と触れさせることをおすすめします。
香り好きの皆さんであればTPOに合わせた香水をいくつもお持ちだと思いますので、そのコレクションの一つとして持っておいて絶対に損をすることはありません。
まとめ
ジャスミンとタバコという、対極にあるような香料が仲良くダンスする香り、「JASMIN ET CIGARETTE(ジャスマン エ シガレット)」。
ミスマッチは行き着くところに行くと「化学反応」を起こし、さらに良いものへと変身します。この香水がそうであるように、ぜひ、香りの奥深さを堪能してみてくださいね。
知れば知るほど面白いフレグランスの世界に、きっと貴方も引き込まれていくでしょう。