香水をつくるブランドはさまざまです。
香水だけを専門とするフレグランス・メゾンもあれば、ファッションブランドが展開する香水、さらには化粧品メーカーの香水もあります。
それぞれのポリシーと個性があって、どの分野からヒット作が出るかは未知数です。
しかし、あるニッチな業界が香水を発表しているのはご存知でしょうか。
そのニッチな業界とは、ヨーロッパの「下着業界」です。
アンダーウェアと香水をセットで、と謳っているブランドがほとんどなのですが、どちらも「肌に直接まとう」という点では、非常に理にかなったものであるといえます。
さて今回は、イギリス・ロンドン発祥のラグジュアリーブランド、Agent Provocateur(エージェント プロヴォケター)から、ブランドの名がついたシグネチャー香水「Agent Provocateur(エージェント プロヴォケター)」をご紹介します。
これは日本の市場ではまず存在しないであろう独特な香りであり、そして一度はまったら抜け出せなくなってしまう驚異の香りでもあります。
そんな、正真正銘の「魔性の香り」を徹底解説していきます。
目次
実はあのブランドにゆかりのある、「Agent Provocateur(エージェント プロヴォケター)」
出典:Agent Provocateur公式インスタグラムより
そもそもAgent Provocateur(エージェント プロヴォケター)とはどんなブランドなのでしょうか。
ブランド創始者のお母様は、誰もが知っている、英国のあの天才デザイナー、ヴィヴィアン・ウエストウッドです。
ご子息であるジョセフ・コーレが1994年に立ち上げたのが、このAgent Provocateur(エージェント プロヴォケター)です。
ヴィヴィアン・ウエストウッドと違うのは、ラインナップがファッションではなくアンダーウェアに限っていたこと。
ロンドンで路面店を出した後、ケイト・モスやカイリー・ミノーグ、スーパーモデルのロージー・ハンティントン=ホワイトリーが次々に広告に登場し、押しも押されぬ高級ランジェリーブランドに成長します。
その後はヨーロッパ各国、北米、韓国、香港、ドバイなど世界中で展開され、ロンドン発のランジェリーブームの火付け役となりました。
創始者ジョセフ・コーレは後に代表の座を退きますが、デザイナーはそのまま残り、ヴィヴィアン・ウエストウッドのテイストも引き継がれています。
そのためセクシーな雰囲気はもちろん、少しパンクな印象があるのも特徴です。
今では世界中に店舗があって、販売員の制服デザインもヴィヴィアン・ウエストウッドによるものとなっています。
ゴシックで陰、ローズとムスクのダークな色気
Agent Provocateur(エージェント プロヴォケター)オードパルファム
トップノート:インディアン・サフラン、ロシアン・コリアンダー、マグノリア
ミドルノート:モロッコ・ローズ、コモロ産イランイラン、エジプト産ジャスミン、ホワイトガーデニア
ラストノート:ムスク、ハイチ産ベチバー、アンバー、ウッディ
発表年:2000年
調香師:不明
対象性別:女性
「Agent Provocateur(エージェント プロヴォケター)」は、ブランド初の香水にしてシグネチャー・フレグランスとなっています。
まずトップノートから「何かが違う」と感じることでしょう。
というのは、サフラン、コリアンダー(パクチー)といったハーブ系のスパイスがトップに効いているわけですが、それが「今まで嗅いだことない!」という不思議な違和感を生み出すためです。
ハーブでスパイシーと言っても、私たちが口に入れるようなスパイスのイメージではありません。
どちらかというと「土属性」で、カサついた、例えば北アフリカの大地の匂いとでもいうのでしょうか、そういった遠い世界へいきなり飛ばされてしまいます。
その違和感が心をザワつかせるわけですが、そこですぐに現れるのがマグノリア(木蓮)の柔らかい香り。
いきなり神経を刺激されたかと思えば、円やかで控えめな甘さが登場し、私たちの感情をジェットコースターにのせてしまうのです。
そのジェットコースターは次に、ゴシックの教会へと向かいます。
これはもちろん例えなのですが、まるでヨーロッパの歴史的建造物の中に放り込まれたかのように、香りの雰囲気がガラリと変わります。
ミドルノートのモロッコ・ローズは重厚で格式高く、黒のローブをまとって静かに歩く美女をイメージさせます。
ただし登場人物は一人ではありません。
ローズ美女が消えたかと思うと、次に現れるのが真っ白で官能的なジャスミンです。
ふくよかなホワイトガーデニアも顔を出し、入れ替わり立ち替わりといった感じでフローラルが「美の競演」を果たします。
一人ひとりがスター級なので、それぞれの出力は高めです。
特徴的なのは、それがすべて「陰」で「ダーク」であることでしょう。
同じ英国の映画『007』のボンドガールにはミステリアスな美女が多いのですが、まさにそんなイメージです。孤高でミステリアス、ダークでセクシーというのがピッタリと当てはまります。
そんなキャラクターの濃いミドルノートをまとめているのが、ラストのムスクとなります。
さてここからが「Agent Provocateur(エージェント プロヴォケター)」の真骨頂。
粒子を極限まで細かくしたような、パウダリーなムスクが「皮膚呼吸」のように肌から匂い立ち始めます。
このラストノートの持続力はほかに類を見ないほどです。
深い闇が、いつまでたっても開けないような「永遠の夜」を彷彿とさせます。
もちろん、そこにいるのは先ほどの美女たち。
どんな悪だくみをしているのでしょう、微笑しながらこちらを手招いているようです。
そして、ほんの少しの背徳感を感じさせる、甘美なアンバーがいつまでも、とろりと肌の上に残っていきます。
この手の雰囲気香水は、おそらくランジェリーブランドにしか出せない技と言って良いかもしれません。
もちろんそれはAgent Provocateur(エージェント プロヴォケター)に限ります。
肌に直接まとうものを作っているブランドだけが分かる、本当の官能とは?本当の誘惑とは?
そういった疑問を突き出してくる、「魔性」で「挑発的」な1本です。
攻める香水。寝室に、デートに、寝香水に。
「Agent Provocateur(エージェント プロヴォケター)」が似合うのは、20代半ば〜40代、50代の女性。
ただ年齢より大切なのは、まとう人の「キャラクター」であったりします。
この香水はかなり攻めていて、強いというわけではないのですが、先述した通り魔性かつ挑発的な香りです。
さらにトップからラストまで、日本ではなかなかない類の香りですから、キャラクターも個性的な女性である方が引き立ちます。
オフィスには全く似合いませんし、電車もNGです。
独特な刺激と、「妖しい美女」を思わせるダークな色気がありますので、プライベートもしくは自宅の寝室が一番良いでしょう。
素敵なまとい方としては、「寝香水」があります。
寝る前に一吹きし、そのまま香りと共にお休みになる方法です。
持続力の高い香りなので、朝起きた頃のパウダリー感には誰もがうっとりしてしまいます。
言い換えれば、その香りでオフィスに行くのは全くOKかもしれません。
ただ、本当に不思議な色気を持つ香りですので、刺激に弱かったり、そういった香りが苦手…という方の前では着けるのを避けた方が良いですね。
いずれにしても攻めた香水ではありますので、自分を解放したい時や好きな人と出かける時、自宅での自分時間の際に、じっくりと楽しみたい香りではあります。
まとめ
「Agent Provocateur(エージェント プロヴォケター)」は知る人ぞ知るブランドですが、蓋を開けてみるとかなりユニークな香水が存在しています。
下着ブランドだからこそ作れる、女性のための「魔性香水」。
普段の香水に飽きてしまったという方、ぜひ一度ご覧ください。