『GOUTAL(グタール)』は、パリ生まれのフレグランスブランド。1980年にアニック・グタールによって設立されました。
創業から30余年を経た2018年には『アニック・グタール』から『GOUTAL(グタール)』へとブランド名を変更。香りへの情熱はそのままに、ボトルデザインやラインナップがより現代的にアップデートされました。
もともとピアニスト兼モデルだったという異色の経歴を持つ創業者、アニック・グタール。
アニック亡き後、娘カミーユは母の意志を継ぎ、母が得意とした「湧き上がる“感情”を表現した香り」を作り続けています。
『GOUTAL(グタール)』の魅力は、何といってもその「優しい調香」にあるのではないでしょうか。
海外の香水にはグラマラスで強い香りのものが多いのですが、『GOUTAL(グタール)』に至ってはそんなことはありません。
その香調のほとんどが軽やかで詩的。
攻撃的な香りとは真逆の、ライトで穏やかなフレグランスが多いので、私たち日本人にも使いやすいと評判です。
そんな『GOUTAL(グタール)』には、1980年から続くベストセラーのシトラス香水が存在します。
その名も「EAU D’HADRIEN(オー・ダドリエン)」。
アニック・グタール自身が手掛けた、渾身の1本です。そしてこの香りは『ハドリアヌス帝の回想』という、フランスの歴史小説にヒントを得たオードパルファムでもあります。
歴史ロマンと、トスカーナのレモンが織りなす壮大で情緒的な香り。
シトラス香水イコール「EAU D’HADRIEN(オー・ダドリエン)」、と言っても過言ではないほどの人気作品です。
ハリウッドスターも愛用する「EAU D’HADRIEN(オー・ダドリエン)」、今回はそのどこが素晴らしいのか、詳しくご説明したいと思います。
レモンの香りをかつてないほどエレガンスなものに
EAU D’HADRIEN(オー・ダドリエン)オードパルファム
トップノート…シチリア産レモン、マンダリンオレンジ
ミドルノート…グレープフルーツ、シトラス、イランイラン
ラストノート…サイプレス(糸杉)
発表年:1980年
調香師:アニック・グタール
対象性別:ユニセックス
「EAU D’HADRIEN(オー・ダドリエン)」といえば、「プチ・シェリー」とともにアニック・グタールの人気を支えてきたフレグランスです。
創業者アニックがフランスの女流作家、ユルスナールの『ハドリアヌス皇帝の回想』(Memoires d’Hadrien)を読み、主人公のキャラクターに感動してフレグランスで表現したものです。
『ハドリアヌス皇帝の回想』はローマ帝国の五賢帝のひとり、ハドリアヌス帝の視点から描かれる回想小説です。
病を自覚した皇帝が、ローマ辺境の戦地を収め、旅をし、芸術や美少年を愛してきた人生を振り返る小説となっています。
「EAU D’HADRIEN(オー・ダドリエン)」はアニック・グタールの出世作で、それまでカジュアルで格式が低いとみなされていたシトラスの香りをエレガントに、深みのあるものに変えました。
レモンやグレープフルーツを、単なる「夏向けの爽やかな」香りというだけでなく、「晩年のエンペラーの香り」として仕上げるのはかなり難易度の高い素材だったのではないでしょうか。
出典:『GOUTAL(グタール)』公式インスタグラムより
トップノートは、非常にジューシーなシチリアン・レモンの香りで始まります。豊かで、みずみずしいレモンの香りが辺り全体にフワッと漂います。
レモンの香り自体はシャキッとしているものですが、広がり方がとても柔らかいところが「EAU D’HADRIEN(オー・ダドリエン)」の特徴です。
程よくフローラルノートも混ざっているので、シンプルに「食べ物」のレモンの香りというよりは「果実のある美しい風景」といったイメージでしょうか。
このトップノートを感じていると、頭が冴え、聡明になった気分にさえなれます。
「EAU D’HADRIEN(オー・ダドリエン)」のトップノートは母国フランスでも「素晴らしい」と発売当初から有名です。シトラス好きでなくとも、この美しいシトラスノートには惚れ込んでしまうでしょう。
ミドルからラストノートにかけては、少しクセのある苦味とサイプレス(糸杉)のやや渋みを含んだ木の幹のような香りが、じんわり顔を出します。
甘さやまろやかさは全くなし。
最初から最後までキリッとした鋭いエッジを保って、まるで「信念」を貫いているようなオ香りです。それはさながら、己の信念を貫いて生きたローマ皇帝、ハドリアヌス帝のよう。
ハドリアヌス帝は、映画『テルマエ・ロマエ』に出演する、第14代ローマ皇帝のモデルとなった人物です。
ローマ帝国史上最大の版図を実現し、暴君と囁かれる一方で、疲弊しきった戦士や一般人にローマ風呂を提供し、民の心と体の傷を癒し続けた懐の深い人でもありました。
小説『ハドリアヌス皇帝の回想』においてハドリアヌス帝は、「水は平和の象徴」ととらえ、帝国のあり方を「水のあり方」と指したさまが描かれています。
そして「EAU D’HADRIEN(オー・ダドリエン)」は、日本語に訳すと「ハドリアヌスの水」という意味。
このフレグランスは、そんな「水を制した」皇帝、ハドリアヌス帝のエレガンスと儚さを、情緒的なレモンの香りで表したものなのです。
一年を通してまとえるフォーマル・シトラスノート
「EAU D’HADRIEN(オー・ダドリエン)」はシトラスノートなので、春夏向けの香りのように見えますが、実は冬場もおすすめです。
暖かいお部屋で、ちょっと気分転換に一吹きするのもよし、ニットと合わせるのもよし。
この香りをまとっていて寒々とすることなんてありません。
むしろ寒い時期はサイプレス(糸杉)が森林のような香りを醸し出すので、冷えて疲れた心身にはアロマテラピーのような効果をもたらしてくれることでしょう。
そして春夏はもちろん、シトラスノートが大活躍する時期ですから、思う存分「EAU D’HADRIEN(オー・ダドリエン)」をお楽しみいただけます。
格式高くエレガントな香りですので、ビジネスシーンでもばっちり。
スーツスタイルに合わせることも可能です。どちらかというと、ビーチやバカンス先といった特別なシーンよりは、日常に取り入れたい香り。
カジュアルになりがちな柑橘系の香りを最大限にフォーマル化した、貴重な1本です。
そのため年齢層は30代以降の大人の男女にお似合いになるでしょう。
オードパルファムの方がトップノートが長続きするため、この綺麗なトップノートを楽しみたいという方にはオードトワレよりオードパルファムがおすすめです。
まとめ
「EAU D’HADRIEN(オー・ダドリエン)」は、フレグランス界のオスカー賞、FIFI AWARD(2008年)に輝いた香水です。
世界的にも名作と言われる1本から、『GOUTAL(グタール)』がいかに「感情に訴える」香り作りを目指しているかを読み取れることでしょう。
シトラス好きの方はもちろん、『GOUTAL(グタール)』が気になっているという方はぜひお試しになってみてくださいね。