スウェーデン発のニッチフレグランスブランド、バイレード。

ニッチとはいっても、飛ぶ鳥を落とす勢いで人気が高まっており、ファッショニスタの間では大変な話題となっています。

香水のテーマは、全て創始者ベン・ゴーラム氏の「記憶」を元にしたもの。

これまでには、母のルーツであるインドに思いを馳せた香りや、子供時代に親しんできたカナダの大自然にインスパイアされた香りを発表してきました。

とはいえ重すぎる香りは多くなく、複雑ながらも洗練された雰囲気のあるフレグランスばかりなので、「意外と使いやすい」と評判です。

肌馴染みがとても良いのも、バイレードの魅力。

ジェンダーレスで、ファッションの妨げにならない落ち着いた香りも人気の秘密となっています。

またホームフレグランスや、ハンドクリーム、ハンドウォッシュ、ボディローションなどのアイテムも販売されているため、お気に入りの香りをラインで揃えることも可能です。

最近ではリップやアイカラーといった、コスメの展開もしており、北欧らしい個性的な色使いやユニークなビジュアルが注目されています。

さて、そんなバイレードに新たな香りが加わりました。

2022年3月に発売されたのは、「DES LOS SANTOS(デ ロス サントス)」という名の、“メキシコの祝祭日”にオマージュを捧げたオードパルファムです。

ベン・ゴーラム氏は、これを“人生を謳歌するための香り”としています。

では、一体どんなところが“人生を謳歌する”のでしょうか。

メキシコの祝祭日の詳細に触れながら、このアーティスティックな香りを詳しくご紹介していきたいと思います。

メキシコのお盆、カラフルに彩られる「死者の日」

メキシコの公用語はスペイン語。スペインの文化を色濃く受けた国です。

そして宗教もまた、カトリックとヨーロッパの影響を受けています。

そして11月1日〜2日は、亡くなった人たちの魂が現世に戻ってきて、家族たちに会いに来てくれるとされている日です。

それは「死者の日」と呼ばれていて、日本のお盆のような習慣です。

特徴は、メキシコにおける代表的なモチーフ「カラベラ」(カラフルな骸骨の工芸品)が街全体にあふれること。

死者の日当日には、そこかしこにたくさんのカラベラが飾り付けられ、賑やかな骸骨たちの王国に様変わりするようです。

「死者の日はヨーロッパのカトリックが起源」と言われていますが、一方で、このお祭りの成立には土着の祝祭も影響しています。

スペイン人たちの前にメキシコを支配していたアステカ文明にもまた、死者のための祝祭が存在していました。

「カラベラ」は、この文明の神話の重要な女神「ミクトランシワトル(Mictlantecihuatl)」に由来しています。

死者の日はカラベラを飾るだけでなく、お祭りの参加者たち自身が派手な骸骨の化粧を施して楽しみますが、それは女神様へのオマージュでもあるのでしょう。

日本のお盆の文化とは異なり、メキシコの死者のお出迎えはとにかく派手に、カラフルに。

死者の日とは、故人の死について悲しみに暮れるのではなく、生前の故人について思い出を共有し、家族の絆を深めるための日。

地域や家庭によってさまざまなスタイルや楽しみ方の違いはあっても、明るく楽しい話と雰囲気で死者を迎え入れ、家族団らんの時間をもうけることが、「死者の日」の本当の目的なのです。

バイレードは、そこに着目しました。

暗い話題の多い世の中ですが、こんな時だからこそ、限りある人生を謳歌しようと。

メキシコの大地と、カラフルなお祭り模様と、精霊たち、そんなコンセプトが詰まった香りになっています。

ハイセンスな土の香り。スピリチュアルでミステリアスな一面も

出典:BYREDO公式インスタグラムより

DES LOS SANTOS(デ ロス サントス)オードパルファム

トップノート:クラリセージ、西洋スモモ

ミドルノート:インセンス、アンバー、ラブダナム、イリス

ラストノート:パロサント、アンブロクサン、ムスク

発表年:2022年

調香師:ジェローム・エピネット

対象性別:ユニセックス

まず「DES LOS SANTOS(デ ロス サントス)」は、くすぐったくなるようなスモモの香りと、透明感のあるクラリセージが、一瞬だけキラリと輝きます。

ここでは、「死者たち」が現世に降り立った瞬間を表しているのでしょう。

その表情はとても柔らかく、ライトです。

さらには透き通っていて、フワっと風が抜けるようです。

クラリセージのハーブの香りがどことなく神聖で透明感があるのも、こうした背景を組み込んでいるのだと思います。

怖いとか、ザワザワする、といった感覚は全くありません。愛した故人が精霊となって、また家族の元に帰ってきてくれる、優しい瞬間です。

そのため「祈り」や「瞑想」というワードが似合う、スピリチュアルなトップノートとなっています。

次のフェーズは、非常にミステリアスに展開します。

主役はインセンス。インセンスというお香の香りは通常、寺院やレガシースポットを思わせるミステリアスなものです。

バイレードはこのインセンスを扱うのが非常に上手で、テーマごと(記憶の元となる場所)に優れた解釈を加えています。

パウダリーなイリスが「鎮魂」「瞑想」を思わせる落ち着いたムードを薫らせながらも、アニマリックなアンバーが、メキシコらしい、野趣あふれる個性を上乗せしています。

一口にインセンスといっても、その国、その土地の特色を、瞬時に連想させる仕上がりにしているところが素晴らしいのです。

そこに西洋のフィルターが加わっているのも素敵。

「DES LOS SANTOS(デ ロス サントス)」の香りが野暮ったくないのは、バイレードの「多様性を重んじた」調香の結果なのでしょう。

ラストノートは、神聖さを表すパロサントが、雄大なムスクを伴って厳かに着地します。

シンプルに言うと、とてもお洒落な「土の香り」。

メキシコの大地、土着の文化、死者の日そのものに敬意を払ったような、素晴らしい自然の香りです。

大地から匂い立つ香り、または大自然の精霊のイメージが、ベン・ゴーラム氏の感性を通すとここまで洗練された空気となるのだな、と感心せずにはいられません。

ミステリアスでスピリチュアル、さらにメキシコのスパイスが抜群に効いている、今までになかったタイプのフレグランスです。

感度の高い男女へ。アーシーな香りを求める人にも太鼓判の香り

「DES LOS SANTOS(デ ロス サントス)」は一言でいうと、非常にお洒落な香水です。

甘くなく、爽やかでもなく、フレッシュでも、複雑でもありません。

さらには「このシーンに似合う」「この季節に似合う」といったルールも特にありません。

神聖で、大地の香りがする、ちょっとミステリアスなユニセックス香水のため、「感性」で気の赴くままにまとうことをお勧めします。

年齢層も幅広く、20代から60代くらいまでの方にお似合いになるでしょう。

バイレードの香りは「感性」に訴えかけるものが多くありますので、「好きだ!」と思う人は理由や香りの構成を気にせず、手に取ってみて正解だと思います。

「DES LOS SANTOS(デ ロス サントス)」について敢えて言うならば、アーシーな香り(大地の力強い香り、土の香り)を好む方にピタリとハマる香水だということでしょう。

世の中には本当にたくさんの香りがあふれているので、どれを選ぶか迷ってしまいます。

しかし、「DES LOS SANTOS(デ ロス サントス)」はあまり似ているものがありませんので、好きな方は一目惚れ、ならぬ人嗅ぎ惚れしてしまうかもしれません。

スピリチャルな鎮魂歌のように、心地よい苦味を漂わせながら、静かに祈りを捧げていく。静かだけれど、内に秘めたメッセージはとても「骨太」な、たくましいフレグランスです。

まとめ

感度の高いバイレードから、またしても感度の高いフレグランスが登場しました。

喪失と再生、未来と過去、死者と生身の人間。

相反するものから生まれるモダンな創造力こそが、「DES LOS SANTOS(デ ロス サントス)」に惹かれる理由なのかもしれません。

2022年にふさわしい、バイレード最新の香水をぜひ香ってみて下さいね。