イタリアの香水職人アンドエラ・カソッティと、ジャカルタのウードハンターであるモハメド・アブ・ナシによって誕生したイタリアのニッチフレグランスブランド「The House of Oud (ザハウスオブウード)」。
国境もバックボーンも異なる2人の友情と芸術への飽くなき情熱が、純粋なアートとしての香水を生み出し続けています。
ブランド名のキーであるOUDは「Our Unique Devotion(私たちのユニークな献身)」を意味し、2人の創業者の精神が凝縮されたキーワードとなっています。
これはウードを香りの中心としてのキーノートではなく、すべての香りをつなぐ媒介として捉えることで、流行にとらわれない革新的なスタイルを実現する根幹となっています。
そんなブランドから2018年にデビューし、日本でも着実に人気を獲得しつつあるTHE TIME(ザタイム)は、まさに今この瞬間、自分が生きていることを強烈に体感することをテーマに制作されました。
日本の文化「茶道」の考え方をベースに置き、目の前のお茶のみに集中する静寂に包まれた環境の中で、物事の流れを観察し、自分の内外の時間を深く味わうことの重要性を説いています。
時をテーマにした香りとは、果たしてどのようなものなのでしょうか。
青く輝くコンテンポラリーなボトルから興味をそそるTHE TIME(ザタイム)を徹底解説します。
目次
今、この瞬間に集中する文化「茶道」に込める作品のテーマ
THE TIME(ザタイム)は日本の茶道をモチーフに、今この瞬間を味わうことの贅沢さを感じ取ることがテーマとなった作品です。
茶道は余計な要素を一切排除した四畳半の質素な茶室で行われます。
その発祥は室町時代まで遡りますが、金箔をふんだんに使った安土桃山文化が花開く戦国時代末期に隆盛を迎えます。
時代の覇者である織田信長や豊臣秀吉といった武士たちがこぞって茶会を催したという話が有名ですが、巨大な領土や城を所有した彼らが、わずか四畳半の空間に閉じこもってお茶に向き合ったというとその規模の違いからミスマッチ感を覚えます。
しかし日々の想像を絶するストレスを完全に遮断し、目の前のお茶にのみ集中する時間は、自分を見失うことを防ぎ、本当に重要な判断をするために必要な時間だったのではないでしょうか。
今この瞬間、一度立ち止まり、内省の時間を取ることの重要性は、忙しない日常を送る今の時代において、現代人がひしひしと感じ取っていることなのではないかと思います。
そんな人生の大事なことを改めて考えさせてくれる作品となっています。
職人が手掛ける、世界に2つとないコンテンポラリーなボトル
The House of Oud(ザハウスオブウード)のボトルを見てまず最初に感じるのは、その独創的なボトルへの好奇心ではないでしょうか。
実はThe House of Oud(ザハウスオブウード)のボトルはキャップが下についており、ノズル部分が逆さまになっています。
ボトル一つ一つが職人の手作りであり、世界中に2つとして同じ模様がない、特別感に溢れたデザインとなっています。
アインシュタインの相対性理論によると、唯一無二の絶対的な時間は存在せず、各人が自分だけの時間の尺度があるとされています。
その時間を表現するかのように様々な流れの模様が滲んで絡み合い、多数の次元や時空が混在している世界のようにも見えます。
香りはもちろんですが、そのビジュアルからまさにアートとしても楽しむことができます。
ほっと一息つける紅茶とシトラスのクリーンな香り
THE TIME(ザタイム):オードパルファム
トップノート:ベルガモット、 ニガヨモギ、ブルーカモミール
ミドルノート:ブルーティー、バーベナ
ラストノート:シダーウッド、ムスク、アンバー、ブラックティ
発表年:2018年
調香師:クリスチャン・カラブロ
本作の調香を担当したクリスチャン・カラブロは、同ブランド「ロイヤルストーンズコレクション」のエメラルドや、パティシエとのコラボによって誕生したスイートな香水キープグレーズドなど、ブランドの注目作を手掛ける調香師です。
トップノートはその場の雰囲気を一瞬で清らかな空間に変えるベルガモット、カモミールが優しく、そして爽やかに香り立ちます。
紅茶系香水として紹介されることもあるように、直後からブラックティー(紅茶)の香りを感じられ、ふっとため息が漏れそうになるリラックスができる香りとなっています。
しかしシンプルな紅茶の香りではなく、作品のテーマである茶道のニュアンスは香り全体に漂っており、世界的な薬草酒として名高いアブサンに使用されるニガヨモギのエッセンスがトッピングされることで苦味と渋みがプラスされています。
落ち着きとやすらぎの要素としてラストノートにはシダーウッドやアンバーが控え、穏やかに収束へと向かいます。
上品で清潔感が溢れる印象でもあり、高級ホテルのエントランスをくぐったときのような癒やしの予感が立ち上ります。
今この瞬間に集中するというテーマの通り、香りが時の流れを止めるような力を持ち、一時的なストレスからの開放をもたらしてくれるかのようです。
「少し疲れたな」「休みたいな」と思ったときにぜひ香ってみてほしい作品です。
ザタイムに似たお茶系香水:NISHANE(ニシャネ)のウーロンチャ
NISHANE(ニシャネ):ウーロンチャ
トップノート:ベルガモット、オレンジ、アオモジ、マンダリン
ミドルノート:ウーロン茶、ナツメグ
ラストノート:ムスク、フィグ
ニシャネはトルコ・イスタンブールで誕生し、当国唯一と言っても過言ではない高級ニッチフレグランスブランドです。
作品名にもなっているウーロン茶は、中華帝国とヨーロッパをつなぐシルクロードを通じてトルコにもたらされました。
ウーロン茶は今から3,000年~4,000年前には既に中国で飲まれていたと言われているほど、歴史のあるお茶です。
本作のトップノートはオレンジやマンダリンといったフレッシュで苦味のある柑橘系がメインとなっており、吹き付けた瞬間はいわゆる私たちが日常的にいただくウーロン茶だと直感する香りではありません。
本作品ではウーロン茶をミドルノートに据えており、トップノートが落ち着いてきたタイミングで徐々に穏やかなお茶の葉の香りが漂い始めます。
ラストノートにはムスクとフィグが使われており、まろやかな甘みがシトラスノートをロングラスティングにするベースとなっています。
THE TIME(ザタイム)と比べるとトップノートの柑橘感が強く出る印象で、スッキリと気分転換したいときにおすすめの香水です。
まとめ
The House of Oud(ザハウスオブウード)の代表作の一つ、時間をテーマにしたTHE TIME(ザタイム)をご紹介しました。
癒し系の香りとして人気の高い紅茶系香水で、意匠が凝らされたボトルは一見の価値ありです。
職場と家の行き来の毎日で仕事に忙殺されている方、時間が光のように過ぎていく都会で暮らす方など、一度立ち止まるきっかけを求めている方々にぜひ試してみていただきたい作品です。
使い切った後、アートとしてコレクションしても素敵なTHE TIME(ザタイム)をどうぞお楽しみください。