現在パリで人気急上昇中の香水ブランドがあります。
その名はBDK parfum(ビーディーケー パルファム)。新進気鋭の調香師デイヴィッド・ベネデックによって創設された、パリ中心部に本拠を置くフレグランス・メゾンです。
家族が香水店を経営するというベネデック氏は、大学でファッションと香水ビジネスについて学んだといいます。
卒業後には世界最大手の香料メーカーに就職しましたが、後に香水一家の名のもとで起業の道を選んでいます。
フランスの首都パリは自身が育った場所でもあり、同氏はその土地から多くの刺激を受けてきたそうです。
いま、フレグランスの多くは中性的であったり、無色透明ともいえる「攻撃性」のない香りが主流となっています。
しかしBDK parfum(以下BDK)の考える香りは“クラシック香水”であり、素材と製法にこだわった古典的なフランス様式です。
最高の天然原料を使用することを信条としながら、「ストーリーを語る香水」というテーマを念頭に置き、そのストーリー上のキャラクターがいきいきと瓶の中で踊るように構成されています。
ベネデック氏は本物にもこだわりました。
そのシンプルながらも重厚感のあるボトルは、ノルマンディーのガラス職人によって手作業で作り出されているほか、製造もすべてフランス国内で行われています。
さて今回ご紹介するのは、BDKでも高い人気を誇る「Pas ce soir(パ ス ソワール)」です。
「Pas ce soir(パ ス ソワール)」とはフランス語で「今夜じゃない」という意味になりますが、香水のタイトルとしては何やら意味深ですね。
魅力的で艶めかしい“パリジェンヌ”をイメージしてつくられたという「Pas ce soir(パ ス ソワール)」、一体どれほどセクシーな香りがするのでしょうか。
「Pas ce soir(パ ス ソワール)」のイメージ像
仕事が終わると、女はオフィスで身支度を整えている。家に帰るつもりはない。
黒のアイライナーで目元を引き締め、肉感的な赤で唇を引き締める。
彼女はオフィスのドアを閉め、ヒールの音をパリの道に鳴り響かせる。
毎週木曜日、彼女はコンコルド広場にあるこのキャバレーに行くのが好きだ。
バーに座り、ウィスキーのロックを注文し、タバコに火をつける。
その半端な明るさの中で、彼女は目の前に人影を見る。彼女は脇を固める。
ところが側にいるのはいつもと同じ人。
二人は言葉を交わすことなく、定期的にすれ違うだけ。
女は微笑み、立ち上がり、一人で踊りに行ってしまう。
彼女の気を引こうとする男が次から次へと現れる。しかし、彼女は目で応えるだけだ。
夜中の2時になると、自信たっぷりのダンディーな男からダンスに誘われた。
男は女を誘う。
それでも結局、女は彼の耳元で言葉を囁く。「今夜じゃない」
「Pas ce soir(パ ス ソワール)」の紹介文には、このような女性の姿が詩的につづられています。
創設者ベネデック氏の文学的な一面が垣間見える内容ですね。
ここからも想像できるように、「Pas ce soir(パ ス ソワール)」でイメージされる女性像は、「大都会で仕事する女性」「お酒と煙草を愛する女性」そして「流されることのない凛とした女性」であるほか、孤独さを少し匂わせる“一匹狼の女性”となっています。
とてつもない色気を漂わせるこの香水がどのように構成されているのか、次で見てみましょう。
甘いリキュールとフルーツの香りが異常な色気を放出
Pas ce soir(パ ス ソワール)オードパルファム
トップノート:ブラックペッパー、ジンジャー、マンダリン
ミドルノート:ジャスミン、マルメロの実
ラストノート:カシュメラン、パチョリ、アンバーウッド
発表年:2016年
調香師:ヴィオレイン・コラス
対象性別:女性
「Pas ce soir(パ ス ソワール)」のトップノートは、甘くとろけるようなリキュールの香りで始まります。
その雰囲気はまるで、老舗バーのカウンター席のよう。
フルーティーなリキュールの向こうから、ワインやウイスキーの「樽」の匂いまでが漂ってくるトップノートとなっております。
かなり酔わせるスタートではありますが、そうした刺激的なトップが過ぎると、ミドルノートでは甘くクリーミーな香りがじんわりと漂うようになります。
このミドルノートはかなりグルマン(お菓子のような甘い香り)で、カカオやキャラメル、シロップ漬けのフルーツといった濃厚な甘さを有しています。
ただフランスでは、甘いグルマン香はセクシーな香りの代名詞。
パウダリーなムスクとも違う、「口に入れたくなるほど美味しい香り」に色気があるとみなされているのです。
ラストノートでウッディ・パチュリが加わると、雰囲気はぐっとゴシック寄りになっていきます。
つまり「蜜」のような香りに「ダークさ」が重なることで、その場の空気が“陰”な色気に満たされてしまうのです。
これは空間を完全に支配してしまうほどの色気です。
陽な色気というのもありますが、色気というのは得てして陰のときに底力を発揮するような気がします。
こんな雰囲気を持つ女性が言う「今夜じゃない」は、なかなかに罪深いものがありますね。
しかし、もしかしたらその「今夜じゃない」は、「今夜しかない」とも捉えられます。
というのは、「Pas ce soir(パ ス ソワール)」が完璧な香りではないからです。
世の中には「隙のない」香水というのが存在します。
大手ファッションブランドが打ち出す香りなどがそれに当たります。
ただ、こちらBDKの「Pas ce soir(パ ス ソワール)」は、完璧な香りというよりは「心を動かす香り」。
もう少し言うと、この甘いミドルノートには隙があります。
もしこの香りに、ローズなど華やかな香りが加わっていたらそれこそ完璧(な女性)だったかもしれません。
つまりこの女性はただ甘さに落ちているだけで、誰かの助けを心から必要としているのです。
「Pas ce soir(パ ス ソワール)」の香りは「良い女が男をあしらう」とも解釈できますが、逆を言えば「内面を見てほしいと渇望する孤独な美女」、となります。
このことから「Pas ce soir(パ ス ソワール)」=「今夜じゃない」は、男性の対応によっては「今夜しかない」「今夜から始まる」にもなる、非常にセンチメンタルな感情を含んだ1本、と言えるでしょう。
甘い香りが好きな淑女の皆さまに。
「Pas ce soir(パ ス ソワール)」の持続時間は4〜5時間程とそれほど長くはないのですが、オフィスや学校には絶対的に不向きです。
20代〜40代の女性がストライクゾーンで、かつ甘い香水が好きな人に限られます。
タイトルに夜とあるようにナイトシーン向けで、デートなど異性と出かける際に最も威力を発揮します。
夏以外であればどんな季節でも構いませんが、乾燥している、というのがグルマン香を綺麗に香らせる条件だと言えるでしょう。
その他、ファッション香水ではないニッチな香りをお探しの方、セクシーでミステリアスな雰囲気を身に着けたい方にはぜひともお勧めしたい香りとなっています。
クオリティが非常に高くもありますので、そういったところでも“周囲と差をつける香り”となりそうです。
まとめ
2014年創業のBDK parfum(ビーディーケー パルファム)は、新進気鋭のパリのブランドの中でも一、二を争う人気香水メゾンです。
今回ご紹介した「Pas ce soir(パ ス ソワール)」は、切ない甘さが感じられる詩的な1本。「甘いけれどそれだけではない」といった感じがとても色っぽい、フランスらしいフレグランスです。