人の心を掴んで離さないユニセックスフレグランスは、世界の香水業界において一大トレンドとなっています。

嫌味のない香りが多く、様々なシーンで活躍するのが魅力的と言えるのではないでしょうか。

その中でも、世界中のファッショニスタを虜にしている香水ブランドがあります。

スウェーデン発のニッチフレグランスメゾン、『BYREDO(バイレード)』です。

無機質なボトルデザイン、エッジの効いたネーミング…「香りに集中してもらいたい」

と、一切の無駄を省いた画期的なデザインが話題となりました。

こうして、一流ファッションブランドの香水が市場を座巻していた2006年、新星のごとくパリに登場したのです。

ジェンダーレスが主流となった今、むしろ「その流行に便乗している」というようなデフォルメされた香りも存在します。

しかし、『BYREDO(バイレード)』の香りは性差で区切っていません。

創設者ベン・ゴーラム氏が全く自由な発想の持ち主であることから、「○○向き」といった固定概念に縛られた香りを作っていないのです。

ところが得てして、『BYREDO(バイレード)』のフレグランスはテーマが強固です。

「こんな着眼点があったのか」と、新作が出るたびにワクワクさせられるテーマ設定はこのブランドの持ち味とも言えます。

今回は、そんな『BYREDO(バイレード)』でもかなり深いテーマの、「ELEVENTH HOUR(イレブンス アワー)」という香りをご紹介します。

この意味は、英語で「最後の瞬間」を意味します。創設者ベン・ゴーラム氏が「地球上で最後の香り」と表するこのフレグランスは、一体どんな香りがするのでしょうか。

地球温暖化が進み海面が上昇した時、人は何を思うのか

英語で「最後の瞬間」の意味を持つ「ELEVENTH HOUR(イレブンス アワー)」は、創設者ベン・ゴーラム氏と同じスウェーデン出身の探検家、Ella Maillar (ラ・マイヤール)氏が訪れたネパールの山岳地の風景からインスピレーションを受けたそうです。

1951年にブッダ誕生の聖地であるネパールを訪れたエラ・マイヤール氏は、訪れた土地について、まるで「世界の終わり」のような光景を目の前にして、人類が自然と接点を取り戻すーそんな場所のように感じたとのこと。

世界で気温が上昇し、2015年から4年間の世界の気温は観測史上最高だったことが確認されました。それに伴い、各地でハリケーンや干ばつ、洪水といった異常気象が起きています。

海が大地を覆った時、人々はいずれ高所を目指すかもしれません。

皮肉にも、かつて高所は人の命を奪い危険な場所であったのが、今度は人を救う地となるかもしれないのです。

「ELEVENTH HOUR(イレブンス アワー)」の香りは、そんな壮大なコンセプトをもとに作られました。

イチジクとラム香る、『BYREDO(バイレード)』でも屈指の美しい香り

ELEVENTH HOUR(イレブンス アワー)オードパルファム

トップノート…ベルガモット、ペッパー

ミドルノート…キャロットシード(人参の種)、ラム酒、野生のイチジク

ラストノート…トンカビーン、カシミアウッド

発表年…2018年

調香師…ジェローム・エピネット

対象性別…ユニセックス

トップノートは、ピリリとスパイスの効いたネパール産のペッパー、そしてベルガモットの清涼感から始まります。

ここで思い浮かぶのは、晴れた山頂、そしてそこに残る白い雪です。凍てついた空気感と緊張感が伝わってくるようです。

ミドルノートを構成する香りの主役は、イチジクとラム酒。意外にも、中盤から甘くやわらかな印象に変化するのです。

その禁断の果実のうっとりするような甘い香りは、同時に先立つ理想郷からの追放の危険を予感させます。

きっと、人類は最後の瞬間に、甘かった記憶を思い出すのでしょう。

聖書では、古代の人々が実のならなかったブドウ園にイチジクの木を植えたとあります。

イチジクの木に豊かな実がつくことを忍耐強く切望したことから、イチジクは「イスラエルの民」に例えられることがあったそうです。

そしてラストノートでは、カシミアウッドの「無」を連想させる、清麗な香りで着地します。ネパールの山岳地帯にインスピレーションを受けた、とのことですが、香りにダイナミックさもなければ、硬質なイメージもありません。

「禁欲的」かつ「凛とした存在感」に、少しの色気を添えて。

全体的に、尖った感性が「一周まわって」生み出した丸みとシンプルさがあります。

最後に丸くなり、非常に肌馴染みが良くなるのが『BYREDO(バイレード)』の強みでもありますが、「ELEVENTH HOUR(イレブンス アワー)」の壮大かつ優しい香りは印象に強く残るもの。

創設者ベン・ゴーラム氏が率いるこのブランドが、自然というものをいかに神々しく捉えているかが理解できる逸品です。

人種や性別を超えて。鎧を必要としなくなった年代に

今や飛ぶ鳥を落とす勢いでヒット作を生み出している『BYREDO(バイレード)』ですが、その中には一定数、向いている年齢層というものがあります。

「ELEVENTH HOUR(イレブンス アワー)」については、30代半ば以降の「自分を守る鎧を着ること」が必要なくなった世代に大変おすすめです。

この香りは他者に向けてマーキングしたり、自己アピールに使用するものではないため、「自分が最高に気持ちよくなれる」ことに集中してまとうべきなのです。

もちろん、人種も性別も関係ありません。

『BYREDO(バイレード)』が提案するように、固定概念を捨て、自分がまといたいと気分が乗った時にいつでもどこでも許される、人懐っこい香りでもあります。

しいて言うなら、イチジクやラムといった甘い香り&ウッド系のミックスノートがお好きな方にはストライクにハマる1本となるでしょう。

まとめ

「ELEVENTH HOUR(イレブンス アワー)」はハッキリとしたイメージソースがないものの、「最後の瞬間」という深くて非現実的な、そして現代に投げかける疑問のような存在感をまとっています。

やがては訪れる「世界の終わり」ですが、この山の頂上のような香りは、「世界のはじまり」をも思わせる甘くてしなやかなものです。

お休みなどリラックスした日に、ぜひこの香りとともに癒されてくださいね。