「フランスの知性・哲人」とも称されるアーティスト、セルジュ・ルタンス氏は、1942年にフランス北部の町リールで誕生しました。

14歳で地元のヘアサロンで働き始めると、立体美や感性についての理解を深めると同時に、友人をモデルに見立てメイクを施し写真を撮っていたとのことです。

1962年に首都パリに渡ってからは、メイク、ヘア、ジュエリーなど多岐の分野にわたって活動。さらに1967年には、クリスチャン・ディオールのメイクアップラインを任されました。

1992年には香水の創作を本格的に開始します。

その芸術性に富んだ香りは、後の調香師や香水メゾンのディレクターにも大きな影響を与えました。

こうした経歴からも、セルジュ・ルタンス氏はフランスが誇る現代の「香水アーティスト」と呼んで差し支えないでしょう。

誇張せずとも、その香水を一滴垂らせば辺りの空気は「装飾品」となり得ます。

またルタンス氏本人は、香水を「幻影であり実体でもある深い存在。人の影であり、自身を投影する甘美なクリスタルの世界である」と例えています。

複雑で難解なテーマの香水がズラッと並ぶセルジュ ルタンス。

しかし興味深いことに、そんなセルジュ ルタンスの豊かなラインナップの中に、極めて「つけやすい」ライトな香りが登場しました。

その名は「Matin Lutens(マタン・ルタンス)」シリーズです。

これは毎朝のルーティーンを再解釈し、 「水」とともに過ごす時間をイメージしたコレクションとなります。

生物にとってなくてはならない水。

水をイメージした香りはたくさん存在しますが、巨匠セルジュ・ルタンスはいったいどのようにその水を香りで表現したのでしょうか。

同時発売となった「Matin Lutens(マタン・ルタンス)」の3つの作品のうち、「L’eau Serge Lutens(ロー セルジュ ルタンス)」をご紹介したいと思います。

アンチ・セルジュ ルタンスという「アンチテーゼ」を含んだコンセプト

ニッチ・フレグランス界の多くは、この世にはびこる戦略的な香水・似たり寄ったりの香りを嘆いています。

もちろんセルジュ ルタンスはその筆頭であると言えます。

実は「Matin Lutens(マタン・ルタンス)」のコンセプトは、ありふれた香りが出回る世界に一石を投じる「アンチ・パフューム」であるとのことです。

しかし「アンチ・パフューム」と言ってしまえば、それは多くの香りを生み出してきた「アンチ・セルジュ ルタンス」にもつながってしまいます。

ところがこの自虐めいた感性がセルジュ ルタンスの面白さでもあります。

つまり、「Matin Lutens(マタン・ルタンス)」シリーズは、セルジュ ルタンスの複雑な香水に疲れてしまった人のための穏やかな香りであり、言ってしまえば「ルタンスの門を叩きやすくする」ための香りでもあるのです。

このシリーズには3種類の香りがあります。

「L’eau Serge Lutens(ルタンスの水)」、「PAROLE D’EAU(水の言葉)」、「DANS LE BLEU QUI PÉTILLE(青のきらめき)」の3つです。

今回ご紹介するのは、中でもブランドが誇る、ベストセラーのリニューアルバージョン「L’eau Serge Lutens(ロー セルジュ ルタンス)」(=ルタンスの水)です。

多くの人を魅了する清潔な香り、その全貌を明らかにしたいと思います。

清潔なリネンの香り。これを嫌う人は見当たらない!

L’eau Serge Lutens(ロー セルジュ ルタンス)オードパルファム

シングルノート:アルデハイド、マグノリア、シトラス、ミント、クラリセージ、ムスク

発表年:2022年

調香師:クリストファー・シェルドレイク

対象性別:ユニセックス

「L’eau Serge Lutens(ロー セルジュ ルタンス)」は、2009年に発売された同名香水のリニューアルバージョンとなります。

こちらはセルジュ ルタンスの原点ともいえる「水」シリーズを代表する香り。

インスピレーション源はモロッコのアトラス山脈で感じた“爽やかな空気や水”となり、オリジナル版については約10年もの歳月をかけて作られたということです。

シングルノートなので、香りの劇的な変化は特にありません。

ワンプッシュしてすぐに香るのは「冷たい水のすがすがしさ」です。

そこからマグノリアの上品な甘さと柑橘類の香りがほどよく混じり、清潔さがアップしていきます。

洗いたてのベッドシーツやバスタオルの“リネン類”を想起させる香りで、セルジュ ルタンスの中でも一二を争うほど清潔な香りと言えるでしょうか。

ミントやムスクが追加されるとさらに朗らかさが増し、心身ともにほぐれていくような感覚になります。

ということで、「L’eau Serge Lutens(ロー セルジュ ルタンス)」は日常のシーンを彷彿とさせる、清らかで好ましい香りが特徴です。

とはいえそこはセルジュ ルタンス。

日常とはいっても全体的には大変リュクスな仕上がりで、まとうだけで気分を高めてくれるのは間違いありません。

すべての人に似合う香り。セルジュ ルタンスに抵抗がある人も

「L’eau Serge Lutens(ロー セルジュ ルタンス)」は、年齢、季節、人種、性別などに関係なくすべての人・シチュエーションに対応できる香りです。

水が人間にとってなくてはならない存在のように、この香りを拒否する人は見つからないかもしれません。

若い人がまとえば、“落ち着いた、礼儀正しい人”といった印象を持ちますし、年配の方がまとえば“清潔感のある親しみやすい人”として人の目に移ることでしょう。

このオードパルファムを持っていて本当に損はないと思います。

香水を少しつけたいけど、手持ちのものだとTPOに不安がある、という時にもピッタリ。

自己主張も少ないので、義理の家族や会社の上司部下といった少し距離のある人にも印象が良いでしょう。

季節もオールシーズンOKです。

と、ここまで使い勝手が良いのですが、決して「商業主義の香水」とならないのもセルジュ ルタンスの技です。

あくまでもリュクスであり、それが「どこかで嗅いだことのある香り」とはなりません。

そのため今までセルジュ ルタンスに抵抗があった、複雑すぎてつけるシーンが分からなかった、という人にはまずお勧めしたい1本となります。

ファンの方でしたら2本目、3本目に加えても良いと思います。

ルタンス氏が「真の贅沢は何よりも清潔さによって体現される」と言うように、「水」が本当は贅沢品なのだ、ということに気づかせてくれる1本です。

まとめ

2022年6月に発売になったばかりの「L’eau Serge Lutens(ロー セルジュ ルタンス)」。

清潔感のある香り、シンプルな香りを探している方には大変な朗報となりました。

またこの香りはさりげなく、誰にも嫌がられずに個性を演出できるので、香水の中では意外とマルチな活躍を見せてくれます。

透明感のある香りが欲しくなった時、「L’eau Serge Lutens(ロー セルジュ ルタンス)」を思い出していただければ幸いです。