2021年春、『Serge Lutens(セルジュ ルタンス)』からオードパルファム「La dompteuse encagee(ラ ダンプトゥーズ オンカジェ)」が仲間入りとなりました。

「フランスの知性・哲人」と評される『Serge Lutens(セルジュ ルタンス)』。

その豊かな才能からルタンス氏は“天才クリエイター”と呼ばれています。

また、哲学的な香りづくりで一流メゾンからも一目置かれており、「香水がアートである」ということを初めて世界に認識させたブランドでもあります。

そして、『Serge Lutens(セルジュ ルタンス)』の香りは道徳性を伝えたり、現代社会に訴えたりするものではありません。

ただ単純に美しい存在、その美しさ自体に価値を置く芸術である“耽美主義”に近いものがあるのです。

つまり、美のみを追い求め、他は何もいらない。

流行りを追うわけでもなく、美しくいることが最高基準であるとして、ひたすらその世界に心を傾け陶酔する。

『Serge Lutens(セルジュ ルタンス)』のブランド哲学は昔からずっと続いており、そしてそんな強い発信力があるからこそ、最高峰のパフュームメゾンとして長く君臨し続けているのだと思います。

今回の新作もまた、ルタンスらしい「逆説的」な香りです。

フランス版VOGUEでは、「La dompteuse encagee(ラ ダンプトゥーズ オンカジェ)」が『2021年理想の香り』として紹介されたほどです。

ではなぜ、理想の香りなのでしょうか?

なぜ、2021年に持つべき香りとして紹介されたのでしょうか。

名作と噂される「La dompteuse encagee(ラ ダンプトゥーズ オンカジェ)」の香りを徹底解説したいと思います。

いささか宗教的な、聖なるアーモンドとイランイランの香り

La dompteuse encagee(ラ ダンプトゥーズ オンカジェ)オードパルファム

ノート:フランジパニ、アーモンド、イランイラン、バニラ

発表年:2021年

調香師:セルジュ・ルタンス

対象性別:ユニセックス

「La dompteuse encagee(ラ ドンプトゥーズ オンカジェ)」の、“La dompteuse”は、(サーカスなどの)動物の調教師、という意味です。

そして“encagee”とは“檻に入れられた”、という意味を持ちます。

つまり、「La dompteuse encagee(ラ ドンプトゥーズ オンカジェ)」の意味は“檻に入れられた調教師”となるのです。

本来なら檻に入れられた動物を扱うはずの調教師が、逆に檻に入れられてしまった…。

一体どういうことなのでしょうか。

香水のタイトルでこれほど変わったものもなかなかありませんし、「フランスの知性・哲人」と評される『Serge Lutens(セルジュ ルタンス)』らしいアンチテーゼを含んだネーミングです。

結論から申し上げますと、「La dompteuse encagee(ラ ドンプトゥーズ オンカジェ)」はそのハードなネーミングとは全く逆の、優しくうららかなフローラルノートです。

一見、妖しくもとれる名前なので、官能的な香りなのかな?と思ってしまいますが、実はもっともっと深く、不思議めいた、神秘的な香りです。

「La dompteuse encagee(ラ ドンプトゥーズ オンカジェ)」の香りの肝はイランイランとアーモンドです。

トップノートでアーモンドのふくよかな甘さがほとばしりますが、すぐに飛びます。

そして、5分後くらいからはイランイランがメインに。

イランイランと言えば甘く官能的な香りがするお花として有名ですが、ここでは官能性は感じられません。

確かにふんわり甘いところはあるのですが、決してハッピーな香りではないのです。

「La dompteuse encagee(ラ ドンプトゥーズ オンカジェ)」の直訳、“檻に入れられた調教師”のシチュエーションを想像してみましょう。

『Serge Lutens(セルジュ ルタンス)』は、まるで檻の中に入れられてしまった調教師のように、自由を制限された私たち、閉じ込められた考えを具体化したのではないかと思います。

2021年、コロナ禍で私たちは行動を制限され、抑え込まれました。

ルタンス氏によれば、「人間の魂は閉じ込められていますが、窓ははるかに自由に開かれています。この光に自分を向けるのは人間次第です。」とのこと。

このことからも分かるように、「La dompteuse encagee(ラ ドンプトゥーズ オンカジェ)」は決して激しい香りなのではなく、逆説的な、一周してカルマが溶けたような神聖な香りであるのです。

それは、ちょうど檻の隙間から入り込む、優しく温かな光のよう。

絶望を味わった先の、一抹の“解放感”と“慈しみ”までも感じられる、宗教的な香り。

この香りとともに一人で教会に行って祈りたくなるような、甘く儚く、神聖で美しい香りです。

全ての人に。アンチフローラルな方にも響く香り

『Serge Lutens(セルジュ ルタンス)』の新作「La dompteuse encagee(ラ ドンプトゥーズ オンカジェ)」は、少し女性よりのオードパルファムではありますが、ユニセックスタイプとして発売されています。

ちょうど良い重さで、つけやすいところも魅力です。

20代後半から上は60代、70代の方がまとってもすごく素敵だと思います。

複雑でも単純でもなく、世界中どの人種にも受け入れられそうな香りで、ステイホームでも外出先でもシーンを選びません。

万人受けタイプの香水というわけではないのですが、抑えたフローラル感が心地よく、世の中全ての人が「これは良い香り」と納得するはず。

今までフローラルの香りが苦手だった、という方にも響いてしまうような美しい香りです。

ファッション香水とは全く違う、『Serge Lutens(セルジュ ルタンス)』ならではの哲学が詰まっているので、香りの奥深さを楽しみたい人にはうってつけのオードパルファムです。

まとめ

コロナ禍の裏で、香水界では名作と呼ばれる作品が次々と誕生しています。

そして今回の「La dompteuse encagee(ラ ドンプトゥーズ オンカジェ)」も、間違いなくその中に入る1本です。

芸術と社会情勢は一致しているといいますが、パンデミックが終わった後に試してみるとまた違った印象を持つかもしれませんね。

不安定な世界ですが、アートシーンは一層の盛り上がりを見せています。

この機会に新しい香りを発見してみてくださいね。