「気体の宝石」「魔法の液体」とも呼ばれる、セルジュ ルタンスの香水。

フランスはパリ発のセルジュ ルタンスは、哲学冴える香りで世の香水ファンを魅了し続けています。

繊細に構成された香り、捻りのあるネーミングセンスなどは人の知的好奇心を惹きつけるものばかり。

また創業者のセルジュ ルタンス氏は、本国フランスで文化芸術勲章コマンドゥールを受章している人物です。老舗のニッチフレグランスブランドとして、一般の方はおろか世界中の芸術家たちも魅了する素晴らしい香りが揃っているのが特徴です。

実は、セルジュ ルタンス氏は実は調香師ではありません。

ブランドのプロデューサーであり、またファッションデザイナー、ヘアスタイリスト、写真家、映画監督という肩書きを持っています。

別名は、「時を旅する人」「フランスの知性・哲人」。

マルチな才能を持つセルジュ ルタンス氏だからこそ、ウィットに富んだ作品を生み出し続けられるのでしょう。

高度に、そしてデリケートに構成されたその香水は、私たちにさまざまな世界を見せてくれます。

今回ご紹介するのは、そんなセルジュ ルタンスから、紅茶とジンジャーの香りが漂う「Five o’clock au gingembre(ファイブオクロック オ ジャンジャンブル)」です。

これは、珍しい香料を使った、またしても香水ファンを唸らせる1本です。

おそらくセルジュ ルタンスの中でも一、二を争う気品のある香りかもしれません。

ではどのようなところが魅力なのでしょうか。その詳細について言及したいと思います。

紅茶とジンジャーのマリアージュ

「Five o’clock au gingembre(ファイブオクロック オ ジャンジャンブル)」は、日本語ですと「ジンジャーが香る午後5時」となります。

つまり、アールグレイの紅茶に、お茶菓子の“砂糖漬けのジンジャー”が添えられた香りです。

紅茶と言えば、イギリスが有名ですよね。

イギリスでは夜のアクティビティも盛ん。平均してヨーロッパの夕食時間は遅く、20時以降になってしまう事もよくあります。

ということで16時〜17時はお楽しみ前の「おやつの時間」。

イギリスでは、この時間に「ハイ・ティー」と呼ばれる、お茶を楽しみながら軽食をとる風習が定着していきました。

「Five o’clock au gingembre(ファイブオクロック オ ジャンジャンブル)」は、この時間に飲むアールグレイになぞらえて、「昼の自分と夜の自分を切り替える“夕方5時”のための香り」となりました。

香りは、アールグレイの品の良さと、ジンジャーのスパイスがミックスされたオリエンタル・スパイシー。

さらにセルジュ ルタンス氏は、バッキンガム宮殿のアフタヌーンティーからインスパイアされたといいます。

香りに気品と優雅さを感じられるのはこのためです。

それでは香りの構成について詳しく見ていきましょう。

ジンジャーが香るティータイムそのものを表現した上品な香り

Five o’clock au gingembre(ファイブオクロック オ ジャンジャンブル)オードパルファム

トップノート:ティー、ベルガモット

ミドルノート:ジンジャー、シナモン

ラストノート:カカオ、ハニー、アンバー、パチョリ、ペッパー

発表年:2008年

調香師:クリストファー・シェルドレイク

対象性別:ユニセックス

「Five o’clock au gingembre(ファイブオクロック オ ジャンジャンブル)」は19世紀の英国、バッキンガム宮殿における午後5時のティータイムがテーマ。

19世紀のイギリスはインド植民地時代です。

厳しい時代でしたが、そんな中でも作法の厳しいティーセレモニーを優雅に楽しむ、気品ある英国紳士に思いを寄せています。

そして「Five o’clock au gingembre(ファイブオクロック オ ジャンジャンブル)」のイメージビジュアルは、片眼鏡に口髭、蝶ネクタイの紳士。

絶対的な上品さを誇る英国紳士、そして宮殿での優雅な時間というのがポイントです。

トップノートは、ベルガモットを含んだアールグレイの香りが全開です。

お茶の渋さは全くありません。アールグレイ×ベルガモットという、大変好ましい、言わば最強のリフレッシュ香です。

ただ甘さはなく、スッキリとシャープなオープニングは少し男性的。

英国紳士の優雅な立ち振る舞いが目に浮かんでくるようです。

ミドルノートはアールグレイに、さらにシナモン、ジンジャーが重なります。

ティータイムの宴もたけなわ、といったところでしょうか。

先ほどのシャープな印象が華やかに変わっていきます。

ここで少しオリエンタルな香りも漂ってくるのですが、これはインドの紅茶、またはインド文化を讃えたものだと思います。

イギリス文化とインド文化の融合です。

もっと突き詰めて言うと、砂糖の入っていないチャイに、蜂蜜をほんの少しだけ垂らしたような香りがします。

スパイスと蜂蜜の甘さが温もりを醸し出していて、徹頭徹尾、上品さが続きます。

ラストノートはアンバーのずっしり濃厚な香りが漂います。

ほんのり苦いのはカカオとパチュリ。甘×苦のコントラストが美しいラストノートです。

面白いのは、ここまで甘い香料を使っているのに決してグルマンノートにならないところ。

紅茶の香りやオリエンタルな香りはたくさんありますが、そのどれにも分類できないのがセルジュ ルタンスの成せる技です。

甘みの少ないオリエンタルノートで、ジンジャーのスパイスが効いた、他にはないユニークな1本です。

壮年層の男女へ。都会に生きる、“知っている人”向けのオードパルファム

個性的な香りの「Five o’clock au gingembre(ファイブオクロック オ ジャンジャンブル)」は、香水初心者の方には難易度が高いかもしれません。

紅茶とは誰もが好む香りの一つですが、このオードパルファムにおいては、スパイス等がかなり複雑に絡み合っており、少し難解なところがあるためです。

また若い人にもあまり向かないと思います。

紅茶そのものというよりは、ティータイムの時間そのものを表現していますので、そういったゆっくりとした時間、空間を好ましいと思う大人の方に向いています。

そのため「刺激」や「ファッション性」とも無縁です。

人と被らない香りを求める方や、自分だけの香りにこだわりがある人ほど、こういった複雑な香りが合うのかもしれませんね。

年齢層は30代~50代の方が良いでしょう。

「Five o’clock au gingembre(ファイブオクロック オ ジャンジャンブル)」は“知っている人”にこそ似合うと思います。

また、タイトルでジンジャーがジャンジャンブルとなっているところにもご注目。

ジャンジャンブル、の部分だけフランス語なのですが、実はジンジャーはフランスにおいて「精力のつく食べ物」として有名です。

“午後5時、堅実な昼の仕事を終えて、華やかな社交の場へ”

これは心を切り替える香りであり、夜に向けて「違う自分になれる」香りでもあるのです。

こうしたポイントを押さえながら、気持ちを切り替えてまとうのも素敵だと思います。

まとめ

いかがでしたでしょうか。「Five o’clock au gingembre(ファイブオクロック オ ジャンジャンブル)」はとてもユニークな作品であり、セルジュル タンスの美学が詰まった香りでもあります。

紅茶の香りで一捻りあるフレグランスを求めている方、絶対に人と被りたくない方にお勧めです。“本物の香り”を思う存分楽しんでみて下さいね。