1910年、創立者であるガブリエル・シャネルがパリのカンボン通りで帽子店を始めたのが『シャネル』の始まり。
ツイードをはじめ、ジャージー素材をアパレルに取り入れた結果、当時の女性たちに支持されて一躍トップメゾンに駆け上がりました。
1921年には初のフレグランス『シャネルNo.5』を発表。
アメリカを皮切りに世界中に広まり、この香水は大ヒット作品となったのです。
こうしてレディースの香りから広まった『シャネル』フレグランスですが、実はメンズの香りも「名香」と呼ぶに相応しい素晴らしいものばかり。
世界三大調香師の一人である、ジャック・ポルジュのメンズフレグランス1作目「アンテウス」からヒットは続き、メンズ香水の人気を決定づけた「エゴイスト」は世界的な支持を集めました。
そして1993年にはその大人気香水「エゴイスト」の続編、「エゴイストプラチナム」が発表されました。
香りはシャープでほんのりスパイシー。
ラベンダーを中心とした、ハーバル感あふれるその香りは他のどの香水とも似ていません。
爽やかでドライで、華やかなのにどこか影のある「エゴイストプラチナム」は、一度嗅いだらずっと記憶に残るほどのインパクトがあります。
今回は、そんな「エゴイストプラチナム」の魅力を徹底解説したいと思います。
アロマティックで清潔なトップノート
エゴイストプラチナム(Egoiste Platinum)オードトワレ
トップノート:ローズマリー、ラベンダー、ネロリ、プチグレン
ミドルノート:ガルバナム、クラリセージ、ジャスミン、ゼラニウム
ラストノート:アンバー、サンダルウッド、オークモス、ベチバー、シダー
発表年:1993年
調香師:ジャック・ポルジュ
対象性別:男性
「エゴイストプラチナム」は、ラベンダーやハーブがベースの「フゼアグリーンノート」。
まず、このフレグランスはトップノートのラベンダーが印象的です。
ローズマリーとネロリ、プチグレンといったハーブとの相性がとても良く、メンズフレグランスの中でも珍しいハーバル・アロマティックな香り。
「エゴイストプラチナム」は、つけたてのインパクトが最強で、BGMをともなって登場するかのようなスター性があるのです。
アロマティックと聞くと優しいイメージがありますが、このトップノートは割と硬質で鋭利です。
朝の外出前に「エゴイストプラチナム」を一吹きすれば、その得も言われぬシャープな香りに「今日も頑張って!」とエールを送られているような気分になるでしょう。
夕方の着け直し、というよりは、朝のすがすがしい時間にこそこのトップノートの良さが引き立つと思います。
アバンギャルドなミドルノート
「エゴイストプラチナム」の3段階の香り立ちは他の香水よりもしっかりしています。
コーカサス産クラリセージと、レユニオン産バーボン・ゼラニウムの香りは華やかながらもドライな印象で、苦みのあるグリーン感をも醸し出しています。
そこに少しのジャスミンが温かみを出し、次第にビター・スイート感を絡めます。
フゼア系の香水はしっとりと落ち着いた雰囲気がありますが、プラチナムエゴイストから漂うアバンギャルドなセクシーさは、ミドルから香るゼラニウムとラストのムスク、シダーが大きく関わっています。
その前衛的な香りに平静さはありません。
それどころか、ゆっくりと腰を下ろし一つの場所に留まることさえ許してくれなそうな、破天荒な雰囲気があります。
伝統・文化・規律を重んじる「保守性」に「NO」を叩きつけて、無風だった場所に一波乱起こすかもしれない、ワクワク感を含んでいるのです。
全体的に尖ったシャープさがあるのに、ちょっとした温かみと色気のアンバランスさでもって、絶妙な「ほっとけない感」を表現しています。
緊張感の溶けるウッディ・ラストノート
出典:『シャネル』公式HPより
ラストノートは一転、人間的な温もりが顔を出し、クリーミーで柔らかい印象へと変化します。
ベチバー、オークモスが森のような大らかさを、そしてシダーとサンダルウッドがオリエンタル感を、アンバーが肌の香りを彷彿とさせ、まるで印象派の絵画のように温雅なエンディング。
今まで香り全体に立ち込めていた緊張感が嘘のようです。
何を考えているか分からないような堅物アーティストの人間らしい一面を見た時、普通の人と段違いの親しみやすさを覚えますよね。
そのような「ツンデレ」感がはっきりと分かってしまうと、このラストノートは病みつきになります。
金属のようなトップ、ミドルノートを経て、毛布のような柔らかさに変わる。
そしてまんまと「エゴイストプラチナム」の策にハマってしまうのですから、良い意味で周りを巻き込む、文字通りのエゴイスト的な香りです。
台風の目のように物事の中心にいながら、自分は決してブレない。
周囲は巻き込まれながらも、その中心となる存在から目を逸らせない。
いつだって気にされ、気に入られ、気に留められる人。
あえて擬人化するなら、こんな言葉がぴったりとくるでしょう。
似合うのはこんな人
「エゴイストプラチナム」が良く似合うのは、やはり「できる」男性です。
「できる」といっても色々な段階がありますが、個人的にはこんな人たちがこの香りにしっくりくる思います。
・肝の据わっている人
・他と迎合しない何らかの信念を持つ人
・人の評価を気にしない人
・衰えを感じさせない若い精神力を持つ人
エゴイストは、フランス語で「自己中心的」を意味しますが、この「エゴイストプラチナム」の由来は個人主義を表す「エゴイスト」と、華やかで社交的な意味を持つ「プラチナム」から来ています。
その若々しく前衛的な香りは、何事にも臆することなく挑戦し、確固たる個性を持った男性像を見事とらえています。
ですが、決して革命を起こすようなリーダータイプの男性、という訳ではありません。どちらかというとリーダーシップをどこか毛嫌いしているような独善的な存在です。
信頼しているのは己の感性のみ、他人にどう思われようと我が道を行く。
その姿勢は時として本当にかっこいいんですね。
文豪ヴィクトル・ユーゴーや、シュルレアリスムの画家、サルバドール・ダリがもし現代で存命だったのなら、きっとこの「エゴイストプラチナム」を手に取ったのではないでしょうか。
もちろんクリエイターだけではなく、幅広い年齢や職業の方にもこの香りは愛されるでしょう。
品格があり、オードトワレなのに持続時間が長いところも『シャネル』らしくあります。
発想や趣味が独特で、スーツも私服も「○○さんらしい」、と思われるような男性にぴったりの、個性的なアート・フレグランスです。
まとめ
「エゴイストプラチナム」は多くの著名人も愛用する香りです。
『シャネル』のメンズフレグランスは他にも存在しますが、一貫して共通しているポリシーは、「自分を愛し、ワンランク上の高みに上ること」。
これは男性にも女性にも尊敬される姿勢だと思います。
ラインナップの中でもひときわ個性的な「エゴイストプラチナム」は、アバンギャルドで近寄りがたいイメージもありますが、その凛とした佇まいとブレない存在感は他に類を見ません。
一度身にまとえば、普段の装いを何倍も豊かなものにしてくれるはずです。
この端麗でアグレッシブな香りが、きっと皆さんの「セルフプロデュース力」を上げてくれることでしょう。