香水の街、南仏グラース生まれの『Fragonard(フラゴナール)』は、フランスで最も有名なフレグランスメゾンのひとつ。

香水の製造だけでなく、ファッション雑貨や香水博物館、一般向けの調香講座など幅広い事業を行っており、香りへの愛に満ちたブランドです。

グラースにある自社工場で製造しているだけあって、『Fragonard(フラゴナール)』の香りの質は他とちょっと違います。

香水、ボディクリーム、ルームフレグランス、石鹸などのアイテム全てが自然な香りで、本当の花畑に訪れたかのような芳醇さ。その美しい香りに、ほとんどの人の心が満たされるはずです。

南フランスの植物や太陽を感じさせるナチュラルさと、老舗ブランド『Fragonard(フラゴナール)』の格が加わった程よいラグジュアリー感が特徴的です。

なかでも特に有名な香りが、今回ご紹介する「Etoile(エトワール)」。

日本ではあまり知られていないこのフレグランスを述べるにあたって、産地グラースの歴史やフランスでの人気度なども合わせてお送りしたいと思います。

香水の都で生まれたフレグランスメゾン

『Fragonard(フラゴナール)』というブランドは、1926年に南仏のグラースで誕生しました。

この小さな街グラースは、世界中から調香師が修行に訪れたり、有名香水の原料となる花畑があったりと、中世から香りの都として栄えてきた場所です。

例えばシャネルの「No.5」やクリスチャンディオールの「ジャドール」など、グラースの街と縁の深い名香が数多く存在しています。

出典:『Fragonard(フラゴナール)』公式インスタグラムより

なぜ、グラースが“香水の都”と呼ばれるまで発展を遂げたのか。

それは中世ヨーロッパにおけるイタリアとフランスの密接な関係から始まります。

はるか昔のローマ帝国時代、薬効のあるハーブは調合して薬としても用いられていましたが、16世紀のイタリア・ルネサンス期になると蒸留技術が進化し香水となります。

当時発展途上国だったフランスにいち早くイタリア文化を広めたのがメディチ家の裕福な女性カトリーヌでした。

時代とともに芸術やファッションの本場は徐々にフランスへと移動し、香水文化も同様にフランスで開花することになります。

ルイ14世が造営したヴェルサイユ宮殿は実はトイレが少ないことで有名で、香水好きだった彼の計らいもあり宮殿では香水を多用したそうです。

そこで貴族達に注目されたのが南仏グラース。グラースは当時の主要産業が革なめしだったのですが、革製品はとにかく臭い!

たくさんのクレームが上流階級のご婦人達から入ったため、ある革職人が香水付きの革手袋を商品化したのです。

それが大人気となり香水ブームが到来します。

南仏特有の香り高い花々の産地だったこともあり、香水産業がみるみる発達していきました。

そしてグラースは、世界の香水の収益の10パーセントを占めるほどの香水の都となったのです。

ロココ美術のような香り

1926年、創業者であるユジェーヌ・フック氏が立ち上げたのが『Perfumerie Fragonard(パフュームリー・フラゴナール)』(フラゴナール香水製造販売会社)です。

実は『Fragonard(フラゴナール)』の名は18世紀後半の画家、ジャン・オノレ・フラゴナールに由来しています。

出典:The Wallace Collection 公式インスタグラムより

ジャン・オノレ・フラゴナールもまたグラース出身の画家。

『Fragonard(フラゴナール)』創業者であるユジェーヌ・フック氏がグラースの土地と、この18世紀ロココ美術を称えたパフューマリーを築き上げました。

ロココ美術の特徴は、「女性的」「感覚的」「優美」さがあることです。直線を排し、丸みを帯びた軽快なタッチ、色調は淡くなめらか。

まさに『Fragonard(フラゴナール)』の香りにはこの美術のような趣が感じ取れるのです。

他のファッションブランドやフレグランスメゾンが打ち出す「自己主張」カラーの強い香水とは違い、あくまで「芸術」として“生活に豊かさをもたらす”香り。

やはり天然香料を用いたフレグランスの“心地よさ”には、人間の嗅覚がダイレクトに反応するのだと思います。

香水ってここまで控えめなんだ、こんなにもリラックス効果のあるものなんだ、と改めてその実力に驚かされるでしょう。

スターという名のオードトワレ

Etoile Eau de toilette (エトワール・オードトワレ)

トップノート:ベルガモット、レモン、リンゴ、ジンジャー

ミドルノート:ガーデニア、ジャスミン、スズラン

ラストノート:ヒマラヤスギ、アンバーグリス、ムスク

対象性別:女性

『Fragonard(フラゴナール)』で一番人気のフレッシュ・フローラルノート。

フェミニンで芸術的、風と陽光を感じる清々しい香りです。

「Etoile(エトワール)」はフランス語で「星」を意味します。その他にも人気者の「スター」という意味、そして「希望」の意味を含んでいて、いずれにせよポジティブサイドで使われている言葉です。

この香りは、「爽やか」という形容詞が他で使えなくなるくらいしっくりきます。

香料ひとつひとつ見てみると、酸味が強くなったり甘くなったりと偏りそうなブレンドですが、柑橘系のトップノートにジンジャー、華やかなミドルノートに青みのあるスズラン、甘めなラストノートにヒマラヤスギを「最後のスパイス」的に加えています。

そうすることによってどの段階の香りも「OO系の香り」と偏ることなく、全体的に「そよ風」のように爽やかに、優しい印象になるのです。

「Etoile(エトワール)」は大草原に咲くスズランをロココ美術にしたような、写実性と芸術性が混じり合った香り。

クリアで甘さは控えめです。

スズランのシャープなグリーンニュアンスが表現されていると同時に、あたたかな陽光を思わせるこの香り、「Etoile(エトワール)」=希望という名前が良く似合います。

優雅でフェミニンなフローラルミックスがしっかりとベースに効いていて、生花のようにリアルな「スズラン」らしさを楽しめると同時に、香水としての完成度や使い心地もばっちり。

また、ヒマラヤスギやアンバーグリスの作り出す人間的な表情が「香り」というよりは「気配」のように全体を包み込んでいて、上品なのにどこか親しみやすく、独特の存在感があります。

photo:「Etoile(エトワール)」詰め替え用の600mlサイズ。濃度や容量にもよりますが、『Fragonard(フラゴナール)』では金属製のボトルを採用。ガラスの容器だと2、3年の使用期限のところを、金属製にしたことで7、8年まで使用期限を伸ばすことに成功しました。

万人受け、と言ってしまうとその香りがいかにも「大衆的」に聞こえてしまうのですが、「Etoile(エトワール)」の良さは「万人」をも超えて民衆を味方にしてしまうほど圧倒的です。

肌との馴染み方が素晴らしく、トップノート以降は徐々に『Fragonard(フラゴナール)』特有のソープ感が現れ、香り自体はあまり変化しないまま、まろやかなトーンに落ち着きます。

もちろん身にまとう季節、年齢、シーンを問いません。

このそよ風のような香りを楽しむには、オードパルファムよりオードトワレが向いているでしょう。

フレッシュ・フローラルと、嗅ぎ疲れしないマシュマロのようなソープ感が融合した、本当に素晴らしい作品です。

まとめ

優美で、上品で、なめらかな香り。

『Fragonard(フラゴナール)』のフレグランスはこのように、ロココ美術のような麗しい香りで満ちています。

「パルファム」のフランス語における定義は、仏仏辞典によれば「染み入るもの」というものです。

その人の脳裏や記憶や肌に染み込んでいくもの。「Etoile(エトワール)」の香りは、まさに「染み込む」ようにフィットします。

香水はこうあるべき、との姿を示してくれている『Fragonard(フラゴナール)』。そのアイテムを一度手に取れば、きっと生涯手放せない宝物となるに違いありません。