ファッションデザイナーとして活躍する前は、映画監督や俳優の経験があったり、建築を学んでいたというトム・フォード氏。

その多才さと類まれな美意識は、香りのクリエイションにおいても遺憾なく発揮されています。

コスメを軸としたトムフォード・ビューティーは世界中で人気を博していますが、なかでも有名なのが、オリジナルのフレグランスです。

『TOM FORD(トム フォード)』の香水はセクシーさとゴージャスさを兼ね備えており、他の人ともバッティングしない、印象的な香りが揃っています。

特に「トム フォード プライベート ブレンド」シリーズの人気は高く、今までに発表された香りは50種類を越えています。

そんなプライベート ブレンドから、またしても新作が登場しました。

冬に相応しい香り、「ミルラ ミステール(Myrrhe Mystère)」です。(2023年9月発売)

「ミルラ ミステール(Myrrhe Mystère)」のミルラは「没薬(もつやく)」を、ミステールはフランス語で「神秘」を意味しています。

ミルラは紀元前の時代から、香油や軟膏の成分、化粧品として使われてきました。

ミルラだけでも複雑で奥深い香りなのですが、『TOM FORD(トム フォード)』はそれにどんな香りを加えて「神秘」としたのでしょうか。

『TOM FORD(トム フォード)』らしい、ラグジュアリーでミステリアスな香りに迫りたいと思います。

ミルラの特徴をおさらい

「ミルラ ミステール(Myrrhe Mystère)」と香水の名前にもあるように、今回の新作は「ミルラ」という香りが主役です。

ミルラは日本語に訳すと「没薬(もつやく)」となります。

カンラン科の低木であり、木の樹皮に切り込みを入れて流れ出した樹液が固まったものを、ミルラといいます。

香りはスモーキーで、儀式や瞑想を思わせるようなミステリアスさを秘めています。

事実、古代エジプトでは太陽神ラーへの薫香として、儀式の際に焚かれていたそうです。

またミイラを作成する時にも、ミルラの防腐効果が活用されていました。

聖書では幼子イエスが誕生した際の贈り物として、三賢人が「黄金」の他に、「乳香」と「没薬」を捧げたとあります。

当時の人々にとっては、植物の香りは金と並ぶほど価値あるものだったのでしょう。

このようにミルラは、傷ついた木が樹皮を出して自身を癒すように、人間にも「心身の癒し効果がある」と言われています。

スモーキーさと、うっとりするミルラ&バニラの二面性が楽しい

ミルラ ミステール(Myrrhe Mystère)オードパルファム

シングルノート:ミルラ精油、ミルラ レジノイドOrpur、 アブサンエッセンス USA、サンダル ウッド オーストラリア Orpur、ジャスミン アブソリュートOrpur、ウルトラバニラアコード、ブラックレザーアコード

発表年:2023年

調香師:ロドリゴ・フローレス・ルー

対象性別:ユニセックス

つけたてから印象的な、力強い香りが「ミルラ ミステール(Myrrhe Mystère)」です。

シングルノートではありますが香りの持続時間は非常に長く、表情を微妙に変えながら、約12時間は続いていきます。

一たび肌にまとえば、瞬く間に神秘の世界へ。

ウッディの香りに誘われて、行った先は異邦にある世界遺産の寺院。

厳かな雰囲気のなかで、一人ぽつんと佇んでいるようなイメージです。

つけたては「焼香台」のような香りもします。

あの特別な香りの前に立っていると、心も身体も浄化されるような気がします。

初めの方は、「ミルラ ミステール(Myrrhe Mystère)」の力強さに驚いてしまうかもしれません。

しかし出だしのパンチ力が良い感じに「浄化力」となって、私たちの心を鎮めてくれるのです。

30分ほどすれば力強さは落ち着いていきます。

贅沢なミルラの香料は変化し、レザージャケットにも似た香りに。

体温で温まった高級なレザーの香りには、安心感を覚えるようです。

後半では、さらに温もりのあるサンダルウッドや、ジャスミンの香りがほんのりと漂ってきます。

ここで『TOM FORD(トム フォード)』らしい高級感が現れます。

古代から使われてきたミルラが見事にモダンな香りとなって、肌の上で鎮座する感じです。

それは秋冬のスーツにも合いそうな、とてもカッコいい香りと言えます。

とはいえ序盤のスモーキーさは長く続き、バニラが顔を出すまでには少しの時間がかかります。

試香紙だけで香っていますと、「男性寄りの香り」と思われる方も少なくないでしょう。

ですがミルラは着ける人によって、香りが微妙に変化するのが特徴です。

体調や精神状態によって感じ方が異なる、とも言われています。

そのため「ミルラ ミステール(Myrrhe Mystère)」は、性差を感じさせない不思議な香りなのです。

一つ言えるのは、神聖な場所で焚かれるお香のように、香りの存在感が際立っていることです。

ファッション香水として捉えると難易度が高いかもしれませんが、「自分と向き合う香水」として考えれば、『TOM FORD(トム フォード)』のなかでも一、二を争う香りと言えるでしょう。

ミルラのスモーキーさと後半に香るラグジュアリーなレザー&バニラ、その二面性を存分に楽しめる1本でもあります。

冬にぴったり!クリスマス時期に着けたい香り

イエス・キリストの誕生日、クリスマスにミルラが献上されたように、「ミルラ ミステール(Myrrhe Mystère)」は冬に合う香りです。

とても個性的でエキゾチックな香りですので、人と被らないフレグランスをお探しの方にもおすすめです。

特にお香の香りが好きな方、ウッディ香水がお好みという方には良いでしょう。

女性でしたら、『TOM FORD(トム フォード)』のブラウン系メイクと相性が良いと思います。

また「ミルラ ミステール(Myrrhe Mystère)」はかっちりとしたファッションに合います。

これは『TOM FORD(トム フォード)』フレグランスのすべてに共通していることですが、「リラックス」や「カジュアル」よりもラグジュアリー&ゴージャスの毛色が強いので、服装もややセミフォーマルなルックがおすすめです。

従って、クリスマス時期にはぴったりな香りと言えるでしょう。

フローラル系やフルーティ系とは180度異なる香りですが、人に好かれる香りというよりは、着けている自分がどんどん好きになっていく、というようなフレグランスです。

もちろんクリスマスでなくてもまとえます。しかし「ミルラ ミステール(Myrrhe Mystère)」は寒い時期、キンと冷え込む時期にこそ、その長所が生きてきます。

それから、実は雨の日とも相性が合います。

冬の雨のなかではスモーキーさが良い感じに中和されて、心に不思議な安らぎをもたらしてくれるのです。

夏の湿気とは相性が合いませんが、冬でしたら晴れの日も雨の日も、「気持ちを落ち着かせてくれる香り」として活躍することでしょう。

まとめ

2023年は新作香水が豊富な『TOM FORD(トム フォード)』です。

今回の「ミルラ ミステール(Myrrhe Mystère)」は2021年に発売された「エベーヌ フュメ」と少し似た、スモーキーな香りとなります。

しかし、ここまでミルラを主役とした香水もなかなかありません。

ミルラの神秘的な香り、心に迫る浄化の香りをぜひお楽しみ下さい。