フランスファッション界の重鎮、Yves Saint-Laurent(イヴ・サンローラン)がこの世を去ってから十余年が経とうとしています。
十代の頃から非凡な才能を持ち、若干21歳でクリスチャン・ディオールの主任デザイナーを任された彼は、当時「ディオール亡き後のフランスを救った」とまで賞賛されました。
その後、アルジェリア戦争への徴兵や心の病を乗り越え、1961年に当時の恋人であったピエール・ベルジェらと組んだオートクチュールメゾン、『Yves Saint-Laurent(イヴ・サンローラン)』を設立。
若き天才デザイナーの快進撃は、それから人生の幕を下ろすまでずっと続いたのです。
さて『Yves Saint-Laurent(イヴ・サンローラン)』は、男性のフォーマルウェアであるタキシードを女性のイブニングスタイルへ変貌させ、革新的な「マスキュリン・フェミニンスタイル」を確立したことで大変有名です。
「革命」「自由」という二つのキーワードは、フランス人にとって昔から続く大切な“人生訓”でもあります。
フランス革命の頃より民衆が勝ち取ってきた「自由」。
フランス国旗、「トリコロール」の意味でもある「自由」という名のフレグランスが、2019年に満を持して発表となりました。
その名前は「LIBRE(リブレ)」です。
『Yves Saint-Laurent(イヴ・サンローラン)』を象徴する、細身のルックにぴったりなそのオードパルファムは、間違いなくこのブランドのアイコン・フレグランスとして語り継がれるようになるでしょう。
今回はそんな「LIBRE(リブレ)」の何が素晴らしいのかをご紹介したいと思います。
自由とユニセックス

LIBRE(リブレ)オードパルファム
トップノート:マンダリンオレンジ、ラベンダー、ブラックカラント、プチグレン、ネロリ
ミドルノート:ジャスミンサンバック、オレンジブロッサム
ラストノート:マダガスカル産バニラ、シダー、アンバーグリス、ホワイトムスク、トンカビーン
発表年:2019年
調香師:アン・フリッポ、カルロス・ベナイム
対象性別:ユニセックス
昨今のフレグランスの主流はユニセックス香水。
中性的な香りは、周囲に媚びない個性を感じさせるものですが、『Yves Saint-Laurent(イヴ・サンローラン)』の「LIBRE(リブレ)」は他のユニセックス香水と一線を画すものです。

出典:『Yves Saint-Laurent(イヴ・サンローラン)』公式インスタグラムより
まず、『Yves Saint-Laurent(イヴ・サンローラン)』は「スモーキング」の存在なくして語れません。
1966年に史上初めて、既製服としてパンツスタイルの女性用スーツが販売されて以降、シーズン毎に「スモーキング」というパンツスタイルを発表しています。
ある時、デザイナーのイヴは気づきました。
「男性の服を女性が着ること」に意味があるのではなく、男性の服を女性が着た方がはるかに美しいという事実です。
その最も美しいスタイルがタキシードなのです。
一切肌を露出せずに女性の魅力を引き出す「スモーキング」の美学こそがユニセックスの真髄ではないかと思います。
初めから「中性的」でニュートラルなものを狙っているのではなく、本当の女性美を知っている人が「選択肢の一つ」としてマスキュリンなスタイルを選ぶ。
どんなファッションで身を包もうが、その人の自由です。
安易にユニセックス、と謳ってしまうと、「トランスジェンダーを良しとする時代の波」という逆の不自由に縛られかねません。

『Yves Saint-Laurent(イヴ・サンローラン)』の提唱するユニセックスとはこうです。
女性が自分の中の男性らしさを愛することであり、男性が自分の中の女性らしさを愛するということ。それは、自分の未知のエリアを愛することでもあるのです。
そう考えた時初めて、「LIBRE(リブレ)」の香りの深さに納得がいくはずです。
苦みのあるマスキュリンなラベンダーと、フェミニンなオレンジブロッサム、この二つのノートの衝突から始まる「LIBRE(リブレ)」の香りは、まさに「クロスジェンダー」と言えるでしょう。
ハンサムでラグジュアリーな香り
「LIBRE(リブレ)」は最も勢いのある女性調香師、アン・フリッポによって作られました。
彼女は、本来メンズフレグランスに良く用いられるフゼアノート(※)をフェミニンな香りに近づけたのです。
※フゼアノート…フゼアとはシダのこと。ハーブ特有の渋みと青み、オークモス(苔)の持つ湿った土のような匂いを合わせた、重厚感のあるかっちりとした香調。男性がフォーマルスーツで身を包んだ時などにふさわしい、カッコいい香りです。

一番印象的なのは、トップノートから漂うプロヴァンス産のラベンダーの香り。
ラベンダーのシャープさと、マンダリンオレンジやネロリといったシトラス系が混ざることによって、エネルギッシュで写実的な印象を与えます。
とにかく清潔でシャープ。
それでいて、決してカジュアルな装いには似合わない「きちんと感」があるところがやはり
『Yves Saint-Laurent(イヴ・サンローラン)』です。
ミドルノート以降、ラベンダーの深みは消えることなく増していきます。
そこで初めてフェミニンなモロッコ産のオレンジブロッサムと、ジャスミンサンバックが顔を出すのですが、その桁違いの華やかさと凛とした雰囲気には誰もが惚れてしまうでしょう。
イメージは現『 Saint-Laurent(サンローラン)』(ファッションの方)のミューズで、シンディ・クロフォードの愛娘、カイア・ガーバー。
フェミニンなスタイルも、マスキュリンなスタイルも似合う彼女は、かつてYves Saint-Laurent(イヴ・サンローラン)がお手本とした女優、マレーネ・デートリッヒのようにハンサムな女性です。

出典:『Yves Saint-Laurent(イヴ・サンローラン)』公式インスタグラムより
ラストノートの余韻もまた素晴らしく、いぶされたようなバニラと艶やかなアンバーグリスがうっすらと色っぽさを残しています。
それは肉感的な“セクシーさ”ではなく、クールで知的で雰囲気抜群。
その得体の知れない雰囲気が、ミステリアスなセクシーさとなって表れているのです。
「LIBRE(リブレ)」は冒頭のラベンダーがとにかく素晴らしく、「スモーキング」の美学がぎっしりと詰まっています。
女性として、男性として、というくくりではなく、時と場合によってはどちらの自分にもなり得る、精神的な「両性具有」の意味合いを持つ香りなのです。
流行りのユニセックス香水とは一味も二味も違うこのオードパルファムは、女性が着けたらカッコよく、男性が着けたら柔らかい印象に。
そこに『Yves Saint-Laurent(イヴ・サンローラン)』らしい品格と洗練さが加わるので、まさに「鬼に金棒」のようなパーフェクトなフレグランスとなります。

またボトルデザインもこれまでの『Yves Saint-Laurent(イヴ・サンローラン)』とは違ってよりラグジュアリーな印象になりました。
テーラードスーツを思わせるハンサムなボトルに、クチュールドレスのようにセクシーなカッティングのブラックキャップ、そして鮮やかなゴールドのチェーンが映えています。
ブランドアイコンでもある「カサンドラ」のロゴが大胆にあしらわれ、目にするたびに気分を高めてくれそうですね。
年齢や季節は問いませんが、「LIBRE(リブレ)」に合わせるファッションにはこだわりたいものです。
やはりカチッと着こなした服装、フォーマルシックなデザイン、オフよりはオンの日に身なりを正してまといたくなります。
間違ってもノーメイクやルームウェアには似合いません。
「LIBRE(リブレ)」の香りと共に、自信という名のファッションを身にまとって出かけてみましょう!
まとめ
『Yves Saint-Laurent(イヴ・サンローラン)』の新作「LIBRE(リブレ)」がブランドを代表するアイコン・フレグランスとなるのは疑いようのない真実です。
今は亡きYves Saint-Laurent(イヴ・サンローラン)が伝えたかった「クロスジェンダー」の概念と、現代の柔軟性をかけ合わせた「LIBRE(リブレ)」は、世界中の人に「こういう香りを待っていた!」と言わしめるでしょう。
「マスキュリン&フェミニン」は、美術で言うところの“究極の美”です。
レオナルド・ダ・ヴィンチさえ求めたその美学を、「LIBRE(リブレ)」の香りのなかに発見することができました。
そんな美しい香りを身にまとい、新たな「自由の扉」を開けてみてはいかがでしょうか。
