前衛的なスタイルと哲学的なファッションで世界的に有名なブランド、『Maison Margiela(メゾン・マルジェラ)』。

ベルギー出身のマルタン・マルジェラは、伝説的なデザイナーの一人としてファッション界の歴史に名を残すほどの人物です。

『Maison Margiela(メゾン・マルジェラ)』は1988年、パリで創業されました。

色あせやほつれ、古着加工などを施したり、衣服としてふさわしくない素材で構成されたファッションは”グランジ・ブーム”を引き起こし、『Maison Margiela(メゾン・マルジェラ)』が唯一無二であるという存在感を世界に示しました。

人気の「レプリカ」コレクションは、古着を複製し、マルジェラのタグを取り付けただけのもの。

今では当たり前の「リビルド」の概念にいち早く目を付けた『Maison Margiela(メゾン・マルジェラ)』は、服の価値がその“ブランド”にあるのか、その“デザイン”にあるのかを問う、精神性の高いブランドなのです。

そんな「レプリカ」から着想を得て、待望のフレグランスシリーズがリリースされたのが2010年のこと。

そのコレクションはどことなく古着のようなイメージで、過去に出会ったことのある懐かしい香りばかりです。

加えて『Maison Margiela(メゾン・マルジェラ)』らしいモード感をも兼ね備えている「レプリカ」フレグランスは、瞬く間にファッショニスタ達のマストハブなアイテムとなりました。

そのなかでも、ひときわ誠実で知的な香りがあります。

「Whispers in the Library(ウィスパー・イン・ザ・ライブラリー)」という名のオードトワレです。

コレクションの中でも“隠れ家”的な人気を持つ、この温かいフレグランスをご紹介したいと思います。

オックスフォードの図書館から着想を得た香り

ノート:ペッパー、バニラ、ウッディ―、シダー

発表年:2019年

対象性別:ユニセックス

一般的に香水は、そのタイトルにあるように、一つのテーマが掲げられています。

『Maison Margiela(メゾン・マルジェラ)』のフレグランスは他とちょっと違うユニークなところがあって、全ての香りに4つのテーマがラベルに記されているのです。

・Originally(起源)

・Provenance and Period(場所、年)

・Fragrance Description(香りの説明)

・Style Description(性別)

ということで「Whispers in the Library(ウィスパー・イン・ザ・ライブラリー)」の詳細は画像にあるように、

・Originally(起源):Whispers in the Library(ウィスパー・イン・ザ・ライブラリー)

日本語名で「図書館でのささやき」

・Provenance and Period(場所、年):オックスフォード(イギリス)、1997年

・Fragrance Description(香りの説明):紙、ワックスを塗った樹木

・Style Description(性別):ユニセックス

となります。

4つのテーマが設定されていることによって香りのイメージが具体的に伝わってくるためシーンが描きやすく、よりフレグランスの世界観に入り込めるという楽しさがあります。

これは他の香水ブランドにはない魅力ですね。

また、このラベル自体も素敵です。どこか古着を思わせる白地の布とほつれた生地は、『Maison Margiela(メゾン・マルジェラ)』ファンのみならず多くの人の目に留まるデザイン。

時間が経って、たとえラベルに染みが付いたとしても、「レプリカ」らしいヴィンテージ味が出て愛着がわくでしょう。

この「Whispers in the Library(ウィスパー・イン・ザ・ライブラリー)」のキーワードは、オックスフォードの図書館・紙・樹木。

オックスフォードの図書館と言えば、あの由緒正しきボドリアン図書館に他なりません。

出典:Bodleian Library公式インスタグラムより

設立はなんと15世紀。シェークスピア初版、聖書初版などを収蔵しているとのことで、いかに歴史の深い場所であるか思い知らされます。

そこにある古書を手に取るだけで身震いがしそうなくらい、厳かで神聖な図書館なのです。

古書、日差し、秋冬を連想させる香り

さてそんなボドリアン図書館にインスパイアされた「Whispers in the Library(ウィスパー・イン・ザ・ライブラリー)」は、乾いた心に染み込んでいくようなオリエンタル・ウッディノートです。

「レプリカ」フレグランスのなかで最も甘くバニラの香りが漂ってくる、重厚感のある香りが魅力的です。

ただ、グルマン系のずっしりとした甘さと違って落ち着いた印象があるのは、中盤から顔を出すウッディノートが効いているからでしょう。

全体的に派手さはありませんが、適度に甘くスパイシーで「木の質感」や「古書の芳しさ」を絶妙に感じ取れる、とても知的な一本です。

図書館の静まり返った空間にひそかに聞こえる「ささやき声」をイメージしていますから、このモワっとした香り立ちには「静寂」や「趣き」といった言葉が良く似合います。

どちらかというと人間同士のささやき声というよりは、古書が自分に語りかけてきそうな雰囲気。

出典:『Maison Margiela(メゾン・マルジェラ)』公式HPより

ボドリアン図書館の奥まったところで見つけた一冊の古書。

それがいつ書かれたものなのか、作者も分からない。

だけど、遠い昔に起きた「誰か」の物語をワクワクしながら覗いているような、一人静かに冒険のスタートに立っているような、「想像力」を掻き立てられる“知的ミステリアス”な香りなんです。

この香りが良く似合うシーンは秋冬の乾いた空気の中。

室内でも大変好ましい香りですが、外気に触れるとより「Whispers in the Library(ウィスパー・イン・ザ・ライブラリー)」の崇高さが際立つでしょう。

秋冬の低い太陽から注ぐ光は、いつもより温かく感じるものです。

そんな柔らかくも儚い日差しを思わせる、優しい一面もあります。

図書館という人工的な空間と、自然の温かみが混ざりあった、何とも粋なオードトワレです。

この香りを身に着ける方の印象は「誠実」、「冷静」、「真摯」。

モテ香水と定義づけられたフレグランスとは180度異なり、自分の心を満たすためだけに存在するような香りです。

オードトワレですが持久力は長く、寝香水としても向いています。

男性にも女性にも似合う香りで、独り占めしたくなるほど心安らぐ不思議なフレグランスです。

この香りは「Whispers in the Library(ウィスパー・イン・ザ・ライブラリー)」というコンセプト通り、落ち着いた香りなので、爽やかな香水を好む方には向きません。

アウトドア派ともアーティスト系とも違う、良い意味で内向的な香り。

20代から30代後半の、心に「繊細さ」を持つ方にぴったりとハマるはずです。

まとめ

歴史的な建造物でもある、オックスフォードのボドリアン図書館。

ぎっしり並んだ本と木製の本棚。

その重厚感のある佇まいには「Whispers in the Library(ウィスパー・イン・ザ・ライブラリー)」のようなウッディノートの香りが良く似合います。

古着と古書は、新品ではあり得ないノスタルジックな雰囲気が魅力です。

威厳があるけど、どこか懐かしくて、できることならずっと、毎日通いたい。

そんなボドリアン図書館の魅力を、香りで見事に再現したのが「Whispers in the Library(ウィスパー・イン・ザ・ライブラリー)」なのです。

その不思議な香りに出会ってしまったら最後、生涯手放せなくなる一本となるかもしれませんね。