『L’Artisan Parfumeur(ラルチザン・パフューマー)』は、世界で初めてのニッチ・フレグランスブランドです。
1976年、フランスはパリにて、ジャン・ラポルトにより創業されました。
当時、一流ファッションブランドが打ち出すマス・フレグランスが一世を風靡しており、それに便乗するかのように市場にはコピー商品が氾濫していました。
迷走していたフレグランス業界において、「本物とは何か?」と問いかけたのがラルチザンだったのです。
ラルチザンのフレグランスがなぜ人を惹きつけるのかというと、おなじみの香料を使っているのにとんでもなく変わった香りを生み出したり、聞いたこともない香料を用いているのに芸術的に美しい香りを生み出すところ。その魔力じみた香りのセンスが素晴らしいのです。
創業から間もなく、ジャン・ラポルトは「世界は本格的な香水に飢えている」と確信したそうです。
「香りの職人」と呼ばれる『L’Artisan Parfumeur(ラルチザン・パフューマー)』は、
今や香水愛好家が一度は手に取る必須ブランドと言えるでしょう。
職人技術と自然界の香りの美しさを融合させ、芸術の域に持ち上げたラルチザンの香りは総じて文学的。
それぞれの香水に物語を秘める、ラルチザンのアイコン的フレグランスを3つご紹介しましょう。
目次
MURE ET MUSK(ミュール・エ・ムスク)/オードトワレ
1978年発表
調香師:オリヴィエ・ジャコベッティ
対象:ユニセックス
トップノート…レモン、オレンジ、バジル、ミント
ミドルノート…ブラックベリー、ジャスミン
ラストノート…パチュリ、ホワイトムスク、オークモス
今から42年前の発表当時、「パリジェンヌの香り」と呼ばれるほど爆発的な売り上げを叩き出し、さらには「フレグランスのフランス革命」とまで言わしめた伝説の香り。
というのも、本来オリエンタルノートによく用いられるムスクという香料を、ブラックベリーで引き立たせるという手法があまりにも斬新だったのです。
現在でもラルチザンの代表的な作品として人気は衰えず、またファースト・ラルチザンとして購入するのに最も手に取りやすいオードトワレと言えるでしょう。
ブラックベリーやムスクといった香りは、どちらかが強すぎると「あざとさ」を演出しかねないものです。
ところが、「MURE ET MUSK(ミュール・エ・ムスク)」には全く逆の透明感と繊細さがあります。
トップノートからミドルノートにかけては、写実主義の絵画で見るような「食べ頃の黒イチゴ」のジューシーさが感じられます。
そしてダイナミックながらも、それぞれの香料が主張することは無く、あえて「引き際」を知っているかのような香り立ち。
ラストノートに近づくにつれて上質なシルクの寝具を身にまとっているような心地よさを味わえます。
肌に吸いつくようにフィットしてくれて、とにかく柔らかい。
クセがなく、どこか艶のある香りなのにセクシーさを押し付けていません。
ミドルノートからラストノートにかけての「角のとれた石鹸」のような香りには誰もが癒されるでしょう。ニッチフレグランス・ビギナーの人にも◎、ニッチフレグランス上級者で香水をダブル使いするのも◎。
一年を通して使用できますが、気温のさほど高くない春・秋にその透明感がアップするでしょう。男女問わず受け入れられる、人懐っこいオードトワレです。
PASSAGE D’ENFER(パッサージュ・ダンフェ)/オードトワレ
1999年発表
調香師:オリヴィア・ジャコベッティ
対象:ユニセックス
トップノート…ローズ、ジンジャー
ミドルノート…百合、お香、アロエウッド
ラストノート…シダーウッド、サンダルウッド、ベンゾイン、ムスク
「PASSAGE D’ENFER(パッサージュ・ダンフェ)」は、日本語に訳すと「地獄通り」となります。これは、かつて『 L’ARTISAN(ラルチザン)』の本社があったパリ6区の「地獄通り」に由来しています。
奇をてらったネーミングはラルチザンのお家芸とも言えますが、「PASSAGE D’ENFER(パッサージュ・ダンフェ)」(=地獄通り)には大変興味をそそられるものです。
ですが、そのネーミングとは真逆のとても高貴な香りに皆さんが驚くはず。
実はこの香り、地獄と天国の分かれ道を決める「最後の審判」が彫られた大聖堂をイメージしているのです。
百合やお香が錯誤する、ウッディノートの香りは独特でミステリアス。
フランス王家の紋章である百合の花と、お香の神秘的な香りは私たちの内面に深く響き、心を落ち着かせてくれます。
「PASSAGE D’ENFER(パッサージュ・ダンフェ)」はオードトワレなので持続時間が短いのですが、その儚さが「PASSAGE D’ENFER(パッサージュ・ダンフェ)」らしくもあります。
ただ、その高貴で凛としたウッディノートには背筋がスッと伸びるような感覚になることでしょう。
文豪の雰囲気を醸し出す「PASSAGE D’ENFER(パッサージュ・ダンフェ)」は、周りに己を“マーキングする香り”というよりは、自分自身が気持ちよくなれる香り上級者のためのフレグランスと言えます。
ある意味、本来のラルチザンらしいニッチな香り。
季節は問いませんが、雨の日のリラックスタイムや、寝香水に使いたい逸品です。
LA CHASSE AUX PAPILLONS(ラ・シャッス・オー・パピヨン)/オードトワレ
1999年発表
調香師:アン・フリッポ
対象:ユニセックス
トップノート…ベルガモット、ライムブロッサム、ピンクペッパー
ミドルノート…オレンジブロッサム、チュベローズ、ジャスミン、菩提樹
ラストノート…イランイラン、カーネーション
「LA CHASSE AUX PAPILLONS(ラ・シャッス・オー・パピヨン)」は、日本語名で「ちょうちょをつかまえて」。
世界で最も売れているラルチザンの香りです。
「LA CHASSE AUX PAPILLONS(ラ・シャッス・オー・パピヨン)」を正統派のフローラル香水と思って試香すれば、その期待は見事に裏切られるでしょう。
ブーケや花壇の花、というよりは、人間の手が付いていないワイルドな花畑のイメージです。
トップノートでは、風に吹かれて花や茎がふわりふわりと動くなか、春の太陽とともに寝転んでいる感覚。
ミドルノートからラストノートにかけては、どこからともなく真っ白い蝶々が飛んできて、鼻の先に止まり、なんとその蝶々から甘美なチュベローズの香りがした・・・というようなストーリー性を含んでいます。
生花の躍動感と、蝶々からインスパイアされた一握りの恍惚感。
「LA CHASSE AUX PAPILLONS(ラ・シャッス・オー・パピヨン)」のすばらしいところは、チュベローズやイランイランと言った官能的な香料を使っているのに、官能性とは無縁な香りを作り出しているという芸術性です。
世の中にあふれかえっている「フローラルの香り」と、それに窮屈さを感じている人に。
「LA CHASSE AUX PAPILLONS(ラ・シャッス・オー・パピヨン)」には、こんな素敵なフローラルの表現があるんだよ、と皆に教えたくなるような、とても気高く飽きのこないフローラル香水です。
湿気の多い日本でもまといやすいオードトワレですが、季節的には春から初夏にかけてぴったりハマると思います。
甘くなりすぎないので、年齢を問わず、男性にもおすすめです!
まとめ
ニッチ・フレグランスの先駆け、ラルチザンの代表的なフレグランスをご紹介いたしました。
種類も豊富にあり、香りも様々なので、ぜひ手に取ってお気に入りの香りを手に入れてみて下さいね。トップノートからラストノートまで、まるで一つの物語が構成されているかのような、独特なラルチザンパフュームの香り。
文学的とも言えるラルチザンの世界観を知れば、香水選びがより楽しくなることでしょう。