フランスの香水ブランドのなかでも、圧倒的なインテリジェンスに富む『FREDERIC MALLE(フレデリック・マル)』。

文学のように奥深いその香りのラインナップは、知的好奇心をくすぐる魅惑的なものばかりです。

創設者FREDERIC MALLE(フレデリック・マル)氏の祖父は、あのパルファン・クリスチャン・ディオールの創業者。

パルファン クリスチャン ディオールといえば、大ヒット作「ミス・ディオール」や「プワゾン」で有名です。

香水界の“華麗なる一族”と言えるでしょう。

現在、本国フランスの首都、パリには本店のほかに5つのショップが存在しますが、その全てにFREDERIC MALLE(フレデリック・マル)氏のポートレートが飾られています。

その知的な表情からも見て取れるように、彼は香りを“文学”ととらえ、まとう人が香りをあたかも“購読”しているような、非常に文化的なものにさせています。

ブランドコンセプトは、「エディション・ドゥ・パルファム(香りの出版社)」。

FREDERIC MALLE(フレデリック・マル)氏自身は編集者として、世界最高峰の12人の調香師たちに自由な発想でフレグランスの制作を依頼しているそうです。

2000年に始まった『FREDERIC MALLE(フレデリック・マル)』。その記念すべき年に発表した香りが、今回ご紹介する「EN PASSANT(アン・パッサン)」です。

「EN PASSANT(アン・パッサン)」とはフランス語で「通りすがりに」という意味になります。

芸術肌の天才女性調香師、オリヴィア・ジャコベッティが、“春一番のセーヌ川沿いを歩いている時に嗅ぐ香りをイメージした”という「EN PASSANT(アン・パッサン)」は、フレグランスの真骨頂とも言えるべき流麗な香り。

ルノワールの絵画のように美しい「EN PASSANT(アン・パッサン)」、至高の嗅覚の世界をご覧ください。

朝日、ライラック、春の雨を思わせるシングルノート

出典:『FREDERIC MALLE(フレデリック・マル)』オフィシャルHPより

EN PASSANT(アン・パッサン)オードパルファム

シングルノート:キュウリ、ホワイトライラック、小麦、プチグレン、ウォータリーノート

発表年:2000年

調香師:オリヴィア・ジャコベッティ

対象性別:女性

「EN PASSANT(アン・パッサン)」は、春の訪れを感じさせる雨上がりのパリを表現しています。

約半年も続く、暗くて長いパリの冬。春の兆しはフランス人にとって、まるで光明が差したように心浮き立つものです。

毎年繰り返されることなのに、春を初めて味わうかのごとく堪能する人々の姿は、まるで理想郷に足を踏み入れたかのよう。

「EN PASSANT(アン・パッサン)」は、そんな自然への賛美に満ちた麗しい香りです。

調香師オリヴィア・ジャコベッティは、「EN PASSANT(アン・パッサン)」の香りを“春一番のセーヌ川沿いを歩いている時に嗅ぐ香りをイメージした”とあります。

全てが生まれ、全てがリセットさせる春。

パリのシンボル、セーヌ川のほとりには春を待ちわびた人が集まり、談笑しながら、まばゆい朝日の方へ向かって歩いている。

川沿いに咲く春の花、リラ(ライラック)の香りを通りすがりに、確かめながら。

出典:ウィキペディアより

と、「EN PASSANT(アン・パッサン)」の香りからはこんな情景が浮かんできます。

そのまばゆい光景はまさしく、ルノワールの絵画『セーヌの沐浴』を思わせるものです。

辺りは朝日で明るく照らされて、緑も青々と鮮やかで、咲き誇るライラックの薄紫色の清々しいイメージ。春の雨上がり、その湿気はむしろ心地良く、水っぽさを含んだウォータリーな感覚も香りから味わえます。

なぜか妙に懐かしいような、どこかほのぼのとした背景が浮かぶ「EN PASSANT(アン・パッサン)」。劇的な香りの変化はなく、最後まで同じトーンが続くシングルノートです。

実は「EN PASSANT(アン・パッサン)」は香水っぽくありません。

「EN PASSANT(アン・パッサン)」は“通りすがりに”という意味ですが、こちらは通りすがりに香って“脳裏に焼きつく”ほど濃厚な香水、という訳ではないのです。

どちらかというと、“春うららの香り”、“洗いたての髪の香り”といった、すれ違いざまに感じる「ああ、いい匂いだなあ」という好ましい感覚。そんな気持ちを瞬時に蘇らせてくれるオードパルファムです。

優しくふんわりとしていて、とても静かで、健康的な香り。

香水という作品を、極限まで「自然」の匂いに近づけた香り。

調香師の巧みな技が、受け手の感性の扉を開けていく。芸術の凄まじい力をこの目で確かに見ることのできる、こだわりの1本です。

一流の香りは香水嫌いも香水フリークも虜にする力がある

最高の香料を使用しながらこのように控えめで静かな香りを創るのは、『FREDERIC MALLE(フレデリック・マル)』にしかできない技でもあります。

製作費用やコンセプトに制限をつけず、調香師の才能を最大限引き出した香りを提供する『FREDERIC MALLE(フレデリック・マル)』のフレグランスは、やはり香水最上級者向けの香りと言えるでしょう。

オリジナリティ性が抜群で人とかぶる心配がなく、そして香水という芸術の極みを心ゆくまで堪能できるはずです。

あらゆるタイプの香りをまといつくした方に、ぜひともトライしていただきたいフレグランスです。

「EN PASSANT(アン・パッサン)」は年齢層は問いませんが、もし20代の若い方がまとえば「本物を知っている」というような貫禄が、逆に壮年の方がまとえば「何もかも包み込むような安堵感」を周囲に与えることができると思います。

若い世代が「将来こうでありたい」と願うような、素敵なミドルエイジの雰囲気を身に着けることができるでしょう。

「EN PASSANT(アン・パッサン)」をまとっている人がいたら、まさに“通りすがりに”印象に残るはずです。「どんな人なんだろう?どんな日常を送っているのだろう?」と。

決して強い印象ではなく、なんだか心が優しくなれるような、思わず深呼吸したくなるような、そんな空気感のある香りです。

そしてこれこそが香水の役目、香水の真骨頂でもあるのです。

まとめ

他のどのブランドより知的で“文豪”らしさがあり、神秘的な香りが魅力の『FREDERIC MALLE(フレデリック・マル)』。

どれも洗練されているのにどこかクラシカルで、そしてどの香水も他と似ていません。

私たちを決して飽きさせることのない、“香りの短編集”のようです。

香りを作り出す出版社でもあり、作品としての短編集、そして絶対に収めておきたい書庫でもあります。

そしてこのブランドを代表する香りが、今回の「EN PASSANT(アン・パッサン)」です。香水の醍醐味とも言える「EN PASSANT(アン・パッサン)」とともに、嗅覚の奥行きを広めていきましょう。